2023年、春の陽光が降り注ぐ東京、東中野。 今日も駅前の交差点は、改札口へと 急ぐ人々で溢れかえっていた。 その喧騒の一角、東中野駅には、 一匹の中型の雑種犬がちょこんと座っていた。 その犬の名はケン。 茶色の少しウェーブがかった毛並みに、 賢そうな丸い瞳を持つ、どこにでもいそうな普通の犬。 ケンの飼い主は、IT企業に勤める 若いプログラマー、健太だった。 一人暮らしの健太にとって、 ケンは家族であり、何よりも大切な存在だった。 二人の出会いは、遡ること3年前。 健太が近所の河川敷で、段ボール箱に入れられ 捨てられていた犬を見つけたのがきっかけだった。 小さな体で震える犬を放っておけず、 健…