いわば情報社会における人間相互間のスパイである。 寺山修司/地平線の起源について(『ぼくが戦争に行くとき』1969) 小雨の多い頃日、わたしは自身を哀れんでいる。あまりにもそこの浅い、この27年の妄執と悪夢。なにもできないうちにすべてがすりきれてしまって、もはや身うごきのとれないところまで来ている。あとすこしで30になるというのにまともなからだもあたまもなく、職までもないときている。そのうえ、この土地――神戸市中央区にはだれも知り合いすらいない。もっとも故郷である北区にだってつながりのある人物はほとんどない。 わたしが正常だったためしはいちどもないが、日雇い、飯場、病院、どや、救貧院、野宿、避…