有吉佐和子著『出雲の阿国』(中央公論社、1969)の主人公、出雲の阿国は、安土桃山から江戸時代にかけて活躍した、現代歌舞伎の起原とされるかぶき踊りを創始した芸能者である。鑪(たたら)の大旦那、田部庄兵衛のお土居屋敷の邸内を埋め尽くした鑪衆を前に、阿国は最後となる阿国歌舞伎を披露し声を限りに唄い踊る。 薄の契や 花田の帯のただ片結び よし名の立たば立て 身は限りあり いつまでぞ よしや頼まじ行く水の 早くも変る人の心 花籠に月を入れて 漏らさじこれを 曇らさじと持つが大事な (閑吟集)舞台を降り女人禁制である鑪の火を見届けた後、田部庄兵衛方を辞する際の願いの一つは、何処で果てようともその墓の在所…