さくら子:渡辺黙禅 1915年(大4)~1917年(大6)春江堂書店、前後終篇全3巻。 渡辺黙禅(もくぜん、1870~1945)の長編小説の一つ。私の好きな作家の一人であり、これまで何作かを読み続けているが、例えれば隠れ家的な食事処で美味な食事ができた時のように、いつも満ち足りた読後感が得られている。文学史上での評価が低い上に、時代の変遷とともに過去の作品群が埋没するのはやむを得ないことかも知れない。しかしデジタル書庫を訪れる好事家にその魅力を見出せる手づるとなるのであれば、ここに紹介する意義も無ではないのだろう。 横須賀の大店の令嬢として育ったヒロインの櫻の薄幸の人生を描く。彼女には出生の秘…