仏・菩薩の説法の音声が大きいことのたとえ。
海潮音は、1905年に出版された上田敏(1874-1916)による訳詩集。 1902年頃から手がけたフランス象徴派、高踏派の訳詩を集め、序として解説を施したもの。 日本の象徴詩運動の先駆となった カール・ブッセの詩を訳した「山のあなた」は特に有名である。
海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)
今日もおつかれさま。 日々に追われ、目が曇っていませんか。 カール・ブッセ作、上田敏訳の『山のあなた』を贈ります。 山のあなたの空遠く 幸(さいわい)住むと人のいう。 噫(ああ)、われひとと尋(と)めゆきて 涙さしぐみかえりきぬ。 山のあなたのなほ遠く 幸住むと人のいう。 ( )は筆者による 幸せになるために毎日頑張っているはずだけど 何が幸せなのかわからない。 皆が幸せと呼ぶモノを追いかけてみるけれど 幸せとはとうてい思えない。 私はどこに立っているのか どこに向かっているのか 何を求めているのか 考えることを 悩むことをなおざりにしていないか。 悩み、血を吐き、のたうち、それでも 考えるこ…
先に咲いた春蘭はまだ花の名残をとどめていますが、チューリップは散りました。 今日は雨ですが、小庭は新緑が美しい季節です。 モミジ「五月紅」 上田敏「海潮音」では、有名な「山のあなた」の次に掲載されている詩、「春」です。上田敏は”春”と訳していますが、原文は、”Mai”(五月、ドイツ語)です。 春 パウル・バルシュ 森は今、花さきみだれ 艶(えん)なりや、五月(さつき)たちける。 神よ、擁護(おうご)をたれたまへ、 あまりに幸(さち)のおほければ。 やがてぞ花は散り志(し)ぼみ、 艶なる時も過ぎにける。 神よ擁護をたれたまへ、 あまりにつらき災(とが)な來(こ)そ。 このところ、MonicaのC…
弥生三月になった今日は、夜来の雨が上がり(千葉県東方沖が震源の地震で未明、震度2~3で目が覚めましたけれど・・・)、日中は、セイヨウミツバチなら巣箱から出ようかどうしようかと思案する15℃前後のいい天気でした 上田敏訳の海潮音は、冒頭、この詩で始まりますね。 燕の歌 彌生ついたち、はつ燕、 海のあなたの靜けき國の 便(たより)もてきぬ、うれしき文を。 春のはつ花、にほひを尋(と)むる あゝ、よろこびのつばくらめ。 黑と白との染分縞は 春のこころの舞姿。 弥生來にけり、如月は 風もろともに、けふ去りぬ。 以下、割愛・・・ 原作: イタリアのダンヌンチオ作『フランチェスカ・ダ・リミニ』 これは、い…
高校3年生の現代文の授業のときです。先生がいきなり板書しました。 山のあなたの空遠く… 「大学に合格後は、自分は山のあなたか…」。 詩歌が好きでなかった私が、文学部に進み国文学を専攻するなんて夢にも思いませんでした。 人生は不思議です。 山のあなたの空遠く 「幸」住むと人のいふ
今週のお題「575」 日本には、俳句や短歌がある。俳句は5・7・5、短歌は5・7・5・7・7だ。昔の日本人は、この形式で情景や心情を表した。伝統は今も脈々と受け継がれて、俳句や短歌を作る人の数は多い。いろいろな同人誌も数多あるようだ。 亡き父は俳句を作り、母は短歌を詠んでいた。二人とも趣味の会を楽しんでいたようだ。父の入っていた会の同人誌が2冊ほど手元に残っている。その中の父の一句が印象深い。 「火車を待つ広野コスモス波のごと」たぶん、父の少年の頃の情景だと思う。おそらく大陸にいた頃だ。汽車を待つ線路の向こうに広がるコスモスの野原。渡る一陣の風に、コスモスが一面サーっと波のように揺れる。それを…
お題「ささやかな幸せ」 3月と言えば、スーパーでも、春物野菜を見つけることが出来ます。 まだまだ旬ではないけれど、緑の葉物を見れば、気持ちも春めきます。 菜の葉も、雛祭りでも、ちらし寿司に使ったり、菜の葉の煮びたしと、春を感じる食材です。 そうそう、菜の花の漬物もありますよね。 上ミ京の花菜漬屋に嫁入りし 虚子 高浜虚子の俳句にありましたね。 昭和16年4月の「ホトトギス」の発表の句のようです。 虚子と言っても、もちろん、男性ですよ。 里の幸が、菜の花なら、この時期、海のモノなら、はまぐりでしょう。 雛祭りの吸い物には、はまぐりの吸い物が登場します。 そうそう、すこし意味深な古川柳見つけました…
D. G. ロセッティ(Gabriel Charles Dante Rossetti, 1828 – 1882)のソネット連作『命の家(The House of Life)』の中に、「音のない真昼時(Silent Noon)」という作品があります(1881年版『命の家』第19番)。原文は以下の通り。Your hands lie open in the long fresh grass, - The finger-points look through like rosy blooms: Your eyes smile peace. The pasture gleams and glooms '…
初めて読んだのは10代の頃だろう。 家にある新潮文庫版は昭和57年41刷440円。 新刊で買ったのか、古本屋で買ったのか、もう覚えていない。 シュルレアリスムを手掛かりに、フランス文学を辿ってボードレールを手にしたという事だろう。 中学でも高校でも、授業でボードレールの名前が出てきた記憶がない。 そもそも文学史なんて、教わっていないような気がする。 それでも「月下の一群」や「海潮音」を知っているのは何故だろう。 ともあれ10代の頃に詩なんぞ読んでいるのは、80's当時でもアナクロニズムであり、シュルレアリスムやダダイズムにかぶれているなんて、遅れてきたヒッピーかよという精神性だったのではないだ…
NHKの朗読の世界で、荷風の「ふらんす物語」をやっている。この番組の作品の選び方は、どうも必然性が感じられず、思いつきで選んでいるとしか思えないのだが、今回の荷風も「いったいどういう風の吹き回しで?」と首をひねってしまう。もしかしたら、パリのオリンピックが関係しているのだろうか。まあそれはそれとして、この荷風という作家だが、いちおう耽美主義ということで、象徴派とは細い縁でつながっている。また彼には「珊瑚集」という訳詩集があって、これが「海潮音」に次ぐ地位を占めているという事実も、彼と象徴派との親近性を強めている。彼自身、己をどう規定していたかは不明だが、アンリ・ド・レニエなどを介して、日本にお…
新潟県小千谷市は、市出身の詩人の名を冠した「西脇順三郎賞」の詩作品を募集しています。現代詩の「詩集部門」と、新人発掘を目的とした「詩篇部門」の2部門で行います。詳しくは小千谷市のホームページの「第3回「西脇順三郎賞」募集要項」を見て下さい。そこで新潟県の詩人としての西脇順三郎について私的な略歴を再度述べてみたくなりました。故郷を嫌い、それが『Ambarvalia』のエネルギーの一つとなり、戦争で故郷に戻り、故郷が好きになり、『旅人かへらず』が生まれる姿が見事に浮かび上がってきます。 小千谷の縮問屋に生まれた西脇順三郎は高価な英書ばかり読んでいました。そのため、彼のあだ名は「英語屋」。彼自身、洋…
いそしみし しるしはみえて ゆたかにも 黄金(こがね)なみよる 小山田(おやまだ)のさと 御神籤 第二十番(大吉) 年齢より老けて見られる程度には苦労を重ねてきた。汗水垂らして情けなく無駄な努力と嘲笑われながらも一心不乱に種を蒔き続けてきた。その成果を収穫するのも間近か。素戔嗚大神は救世者であるからして、必ずこの身をも救い上げてくれよう。「待つ」ということの尊さを思い出す。 * 南方に 恋いて赴く 八筈嶽 洞窟に入りて 海潮音聴く 八筈嶽は正直者の神さま正八幡大菩薩を祀る海に面した洞窟型のやしろ。屋久島に座する。 八幡神は応神天皇を中心とした幾柱かの神々によって構成される。そもそも日本の神は複…
神戸港と六甲山 季節は晩夏ではあるが、連日過去にない極暑、炎帝の振る舞いに、日中はほとほと疲れ切る。夕方に山風が吹き始めて、ほっと一息を吐くところである。しかしながら、わが棲む神戸は海と山に面しているためか、関西では他地域より、気温は2~3度ほど低い。自然の恵みに感謝せねばならない。 【表六句】 No1,発句(夏) 海山の大いなる夏神戸かな 龍峰 No2,脇句(夏) 遊びつくしてこの日焼け肌 葉有露 No3,第三(雑) 有耶無耶の日々心頭滅却にして 九分九厘 No4,四句目 (雑) 木陰で「水の巻」を紐解く 龍峰 時に武蔵の生き方に学びたし。 No5,(秋の月) ピアノ曲月の光で我静か 葉有露…
イメージ 山のあなたの空遠く 「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。 ああ、われひとと尋(と)めゆきて 涙さしぐみ、かへりきぬ。 山のあなたになほ遠く 「幸(さいはひ)」住むと人のいふ。 (カール・ブッセ 上田敏訳『海潮音』) 山の向こう側には 「幸せな所」があるというので 人と探しに行ってみたけど そんなところはどこにもなく がっかりして、涙ぐんで帰ってきた。 山のもっと向こう側には 「幸せな所」があるというんだけど。 という意味でしょうか(トパーズ訳)。 有名な詩なので もっといい現代語訳があるでしょう。 この詩は、小学3年生のとき 父から教わりました。 教わったというほどのものでもなく 夕食…
天つ神岬に立ちて御手広げ終わりなき世の風に幸わう * かな書きで なんみょうほうれんげきょう と細く金色に七字が流れる。 * 日王・日水・日饒・日幡の四沙門によるクロアチア伝道。 * 古戦場で敗れた戦士たちの精霊がはなれこじまに吸い寄せられて、こびとの王国を築いている。不可侵にして平和なヴァルハラ。そこは正しく天国の飛び地。 * こびとだと思われているが、実際には浄眼と浄蔵のごと、大きくなることもできる。もちろん小さくなることも。 * 岬に立つ。海潮音に身を任せ、視界の果てを凝視する。波を越え海を渡る先、この水平線の先、日が昇ってくる先、そこに常世の国はある。ちいさな天人の住まう仙郷はある。そ…
晩年の泉鏡花=1937年1月 写真一覧 夏目漱石、永井荷風、小泉八雲……。多くの文人が眠る東京都豊島区の都立雑司ケ谷霊園から、ある文豪の墓がひっそりと姿を消した。 明治後期から昭和初期にかけて活躍した小説家、泉鏡花。管理してきた親族が今後も継承し続けるのは困難と判断し、墓石は撤去された。しかし、新たな安住の地が見つかった。 案内板に修正テープ 5月中旬、雑司ケ谷霊園を訪れると、著名人の墓の位置を示す案内板に、白い修正テープが貼られていた。よく目をこらしてみると、テープの下には「泉鏡花」の文字が透けて見えた。 泉鏡花の墓があった都立雑司ケ谷霊園の一角=東京都豊島区で2024年5月13日、岡田英撮…
今週のお題「懐かしいもの」 「京都慕情」という歌がある。昨年のことだが、ほんとに久々にこの歌を聴いてハマってしまった。経緯はこうである。たしか春頃だったと思うが、文化人類学のエドワード・ヒースロー教授が亡くなったという記事を読んだ。へえ、誰かしらと思って調べてみたら、実はドラマで教授を演じた団時朗という俳優さんが亡くなったということだった。NHK BSプレミアムで2017年から2022年まで不定期に放送された「京都人の密かな愉しみ」という番組で教授を演じた方の話だった。全編は観られなかったが、断片的な映像からこの番組のストーリーが垣間見えた。その中で流れるのが「京都慕情」だったのだ。美しい映像…
幸せになりたーい!!! むかしは、いつもそう思っていた。 若い頃は幸せになりたいと、切に願っていた。 金持ちになりたい。 かっこよくなって女の子にモテたい。 みんなに注目されたい。 それが幸せへの道だと思っていた。 ところが、あるとき、私のなんでも難しく考える癖が発動した。 そのせいで、幸せについて、ずっと考えてしまったのだ。 幸せってなんだろう? お金と愛、どちらを持っているのが幸せなんだろう? 愛さえあれば幸せになれる? 頭がよくてかっこよいと幸せになれるのか? 金がなくたって幸せになれる? あの頃の私は、「幸せの定義」を一生懸命探していた。 「幸せの定義」に正解がないことを知らなかったの…
2019年4月9日(火)、財務省は新しい日本銀行券(紙幣)及び五百円貨幣を発行すると発表しました。このうち紙幣は2024年度上期を目途に発行され、新一万円券の表には渋沢栄一の肖像が掲載されるとのことです。ここでは、渋沢栄一に関する主な記事をまとめました。 渋沢栄一記念財団 【北支部・新一万円札発行カウントダウンプロジェクト】5月も新札発行に向け様々なイベントが開催されます!〔東京商工会議所 - 2024年5月8日〕https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1202945 【日下部保雄の悠悠閑閑】連休中の楽しみ〔Car Watch - 2024年5月13日〕…
以上、『それいけ!ゲートボールさくら組』(2023:野田孝則)より きょう5月10日は、山口果林さんの誕生日です。1947年生まれの77歳になりました。おめでとうございます。東京都中央区日本橋兜町出身。一男四女の末子。お茶の水女子大学附属中学校・高等学校、桐朋学園大学演劇科演劇専攻を1970年3月卒業。同年5月に俳優座入団。「メテオール」(1970)にて初舞台。日本テレビ「張り込み」(1970)にドラマデビュー。NHK連続テレビ小説「繭子ひとり」(1971.04.05~1972.04.01)では加野繭子に扮しての主演。 1972年に俳優座退団、1973年に安部公房スタジオへ入団。以後1993年…
当地は、最高気温28℃ほどになりましたが、湿度が低くて、爽やかな春の日和のみどりの日でした。 庭では、あのうるさかったヒヨドリが北帰行または山行きでいなくなり、いまは、シジュウカラがツツピーツツピーとさえずっています。 腰痛はよくなりましたが、足痛がまだ治らなくて、兄弟での墓参以来、クリニックと買い物以外出かけていません。悲しいことに、外出がままなりません。 庭の植物とメダカが相手です。😣 ナンテンの花序が伸びてきました。これには、秋には、白い実がなります。この1本以外は、紅い実がなるものばかりです。 一昨年、白実の種、5粒を植木鉢に蒔いたところ、すべて発芽して、15cmほどに成長しています。…
(1)ふるさとと西脇順三郎 西脇順三郎は1894年、新潟県小千谷に生れました。1911年中学を卒業し、画家を志し上京。藤島武二を訪ね、彼の内弟子になります。1912年慶應義塾大学に入学、1917年卒業論文「純粋経済学」を全文ラテン語で書きます。1920年慶應義塾大学予科教員に推され、この頃から文章を執筆し始めます。上田敏の『海潮音』の雅文調、美文体に激しく反撥し、萩原朔太郎の『月に吠える』に大きな衝撃を受けます。順三郎が朔太郎に出会ったことは、近代詩、現代詩を語る上で、不可欠の出来事で、朔太郎の『月に吠える』(1917)と順三郎の『Ambarvalia』(1933)は、大正、昭和期を代表する詩…