当時、私はイギリスの長閑な田舎町に暮らしていた。 少し歩けば馬や羊に出会えるような、時間の流れがゆったりとした場所だった。 住んでいたのは、イギリスでよく見られる 「セミデタッチド(semi-detached)」という形式の家。 一つの建物を左右に分けた造りで、 壁一枚を挟み全く面識のない別の世帯が暮らしている。 日本の二世帯住宅に似ているかもしれないが、 完全に独立した別の住人が生活しているという点で異なる。 家は半分に分かれていたとはいえ、決して狭くはなかった。 朝は紅茶を飲み、時折庭に出てガーデニングを楽しむ、 そんな日常を送るにはちょうどいい、心地よい広さの空間だった。 隣には誰かが住…