空蝉《うつせみ》の尼君の住んでいる所へ源氏は来た。 そこの主人《あるじ》らしくここは住まずに、 目だたぬ一室にいて、住居《すまい》の大部分を仏間に取った空蝉が 仏勤めに傾倒して暮らす様子も哀れに見えた。 経巻の作りよう、仏像の飾り、ちょっとした閼伽《あか》の器具などにも 空蝉のよい趣味が見えてなつかしかった。 青鈍《あおにび》色の几帳《きちょう》の感じのよい蔭《かげ》にすわっている尼君の 袖口の色だけにはほかの淡い色彩も混じっていた。 源氏は涙ぐんでいた。 「松が浦島(松が浦島|今日《けふ》ぞ見るうべ心あるあまも住みけり)だと思って 神聖視するのにとどめておかねばならないあなたなのですね。 昔…