南青山にある石造り4階建の重厚なビルディングの前にぼくと才介は立っていた。両手に大きな風呂敷包み。これは才介が持っている。「相も変わらず、入りづらい建物やな。ひとりじゃ、よう入らんわ」となぜか突然関西弁になる。ここは、今から50年近く前に大手建設会社で施工されたもの。「1960年11月定礎」と入り口の一番下の石に刻まれているが、経年劣化した石の質感はそれ以上の時代を感じさせる。以前三代目から聞いたことを思い出して才介に告げる。「この石は由良(ゆら)石っていう香川県で採れる石で、帝国ホテルなんかでも使われてるって。でも今はもう採掘できないらしいよ。だから、外観を修理するときは古い石を持っている石…