はじめに 科学史を高い視点から俯瞰してみると、物理学と生物学は、20世紀の半ばまではほとんど何の目立った関係性をもたず、両者はほぼ「没交渉の関係」だったように見える。ところが、もう少し眼鏡の倍率を上げてよく見ると、1930年代に入ると、物理の側から生物に関心を持ち、物理学から生物学に転向する若い研究者が、ぽつぽつと現れるのが見えるようになる。この流れは時とともに勢いを増し、1940年代には物理学は生物学に急接近した。そして、生命現象の基底部に存在する遺伝子に狙いを定め、ついにはパクリと口を広げ、遺伝子を丸呑みにしてしまった。このような両者の邂逅(出会い)と衝突は、シュテファン・ツヴァイク流に言…