こちらの豊後介は幕の所へ来て、食事なのであろう、 自身で折敷《おしき》を持って言っていた。 「これを姫君に差し上げてください。 膳《ぜん》や食器なども寄せ集めのもので、まったく失礼なのです」 右近はこれを聞いていて、 隣にいる人は自分らの階級の人ではないらしいと思った。 幕の所へ寄ってのぞいて見たが、 その男の顔に見覚えのある気がした。 だれであるかはまだわからない。 豊後介のごく若い時を知っている右近は、 肥えて、そうして色も黒くなっている人を今見て、 直ぐには思い出せないのである。 「三条、お召しですよ」 と呼ばれて出て来る女を見ると、 それも昔見た人であった。 昔の夕顔夫人に、下の女房で…