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2013年05月18日

[][] 「棋譜著作物性なし」を多数説としてよいのでは

の続きという形です。その後の状況として、

  • 2007年6月の『知的財産講義II 第2版 著作権法・意匠法』(渋谷達紀著)の発行以降、私の知る範囲で、棋譜の著作物性に否定的な見解を表明した法学者・弁護士が増え続けている。
  • それに対して、肯定的な見解は最近は新たに見つからなくなっているだけでなく、肯定的見解のある文献でもっとも有名な『著作権法逐条講義 五訂新版』(加戸守行著)は、次の版が出る様子がなく、記述が変更されるかどうか見極められない可能性が出ている。

という2点をふまえ、今後は、棋譜には著作物性がないという主張が多数説であるという立場にたつことにしたいと思います

下記に、新たな専門家の見解をまとめます。なるべく時系列順のつもりですが、時間がたっているためそうなっていない部分もあるかもしれません。

『全訂版 著作権が明快になる10章』

全訂版 著作権が明快になる10章』(吉田大輔著、出版ニュース社、2009年9月30日発行)の38ページに[ゲームと著作権]という項目があり、その中に次のような記述があります。

なお、ルールの問題とは別にゲームの記録、例えば、将棋囲碁の対局の記録である棋譜について、著作権によって保護されるかという問題がある。これについては、対局者の思想の表現として著作物であるとする考え方もあるが、対局者がそれぞれの局面でどのような手を打ったかは、まさにアイデア世界に属するものであり、また、記録者がゲームの事実経過を一定の決められた方法によって記録したものには記録者の思想・感情が入り込む余地のない事実であるから、その面からも著作物として認めることは疑問である。これと同様に、スポーツの試合記録(例えば、野球のスコアなど)も著作物でない。

この部分は、初版にはなかった記述が追加されており、著者の主張が明確になりました。どの版から記述が追加されたのか確認していませんが、棋譜の著作物性を否定する見解の一つと言えます。

Twitterでのコメント

2012年2月末頃に話題になった、日本将棋連盟によるニコニコ動画上での動画の削除の後、何名かの法律の専門家がTwitterで見解を表明しました。

弁護士の伊藤雅浩氏は棋譜の著作権 ネットなどで出回り問題に - Footprintsで、2011年3月に棋譜の著作物性に否定的な記事を書いていましたが、2012年2月25日にも同様の趣旨ツイートをしていました。

法政大学社会学部准教授の白田秀彰氏は、2012年2月29日に次のようにツイートしました。

私の立場からすれば、棋譜は「駒の操作手順」というアイデアを表現する方法として、ほとんど唯一無二の方法であり、アイデアと表現が融合しているため、著作権の保護が及ばないと考えますが、そうでない学者が主流かもしれません。@kos_holy

http://twitter.com/RodinaTP/status/174982467281891329

その棋譜を元にして動画として表現するとなると、棋譜の複製ではなく、棋譜に表現されているアイデアを別の手法で表現しているのですから、著作権が問題にるものではないと考えます。これまた、楽譜と音楽との関係を例などにして「侵害だろJK」と言ってくる人がいるでしょう。@kos_holy

http://twitter.com/RodinaTP/status/174984215664934912

ゲームやパズルの解法は、ある一定のルールの下で、理論的には網羅可能であり、創作性という点で著作権が目的とする創作とは異なっているわけですし、明確に、数学的解法やアルゴリズムやルールそのものは保護されないと教科書にも書いてあるのですから、侵害ではないはず。 @kos_holy

http://twitter.com/RodinaTP/status/174983873724297216

ところが世の中には自分の作り出したものや自分の好きなものに著作権法の保護が及ばないことを「失礼だ」「侮辱された」と認識する種類の考え方をする人たちがいて、そういう人たちは自分の愛するもののために全力で権利を獲得することを正義だと考えがちです。 @kos_holy

http://twitter.com/RodinaTP/status/174984215664934912

利用者の自由を重んじる立場で、著作物性を比較的狭くとる解釈になっているように見える(特に3つ目のツイート)あたりが、「そうでない学者が主流かもしれません」というコメントにつながっているのでしょうか。私が見ている範囲では、「そうでない学者が主流」というほどではないように思いますけれども。

ほかに、弁護士の壇俊光氏が棋譜の著作物性を否定するツイートをしていたと記憶しているのですが、現在はアカウントそのものが非公開に設定されていて読めません。

渋谷達紀『著作権法』

知的財産法講義II 第2版 著作権法・意匠法』の著者渋谷達紀氏(早稲田大学特任教授)の新しい著書『著作権法』が2013年2月に発売されました。私は内容を確認していませんが、下記のページによると、同様に棋譜の著作物性を否定する見解が記載されているようです。

岡村久道弁護士のブログ

弁護士の岡村久道氏がブログで棋譜の著作物性に否定的な見解を示しています。

理由としては、アイデアそのものであるためとのことです。

特に注目されるのは、一般不法行為についても言及されていることです。

付け加えると、著作権侵害が不成立の場合の一般不法行為の成否は、最高裁第一小法廷平成23年12月8日判決リーディングケースであり、一般不法行為の成立する場面を極めて狭く捉えている。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111208164938.pdf

棋譜の著作物性に関するメモ

著作権法に抵触しないからといって、一般には、民法など他の法律に触れないとは言えません。しかし、著作権侵害とならない利用というのは、特に害がないために侵害と認められていないのであって、特別に他の事情がない限りは、そのまま利用が認められるべきと言うのが基本的な考え方ではないかと思います。

専門家以外では次のような話がありました。

2ちゃんねる発の論考

上記のようなまとまった論考が2012年2月29日に公開されました。これを書いたのは、2ちゃんねるに次のような書き込みをしていた人です。

58 :名無名人:2012/02/28(火) 22:42:29.16 ID:x0CXMdjo

棋譜についての著作権の議論の状況は知りませんが、著作権法を少し専門的に勉強した者です。
棋譜の著作権の有無について私なりの考えを書きたいわけですが、
著作権法について詳しくない人が大半だと思うので、僭越ながら、基礎的なことから説明してみたいと思います。
詳しくない人はぜひ参考にしてください。詳しい人は間違いがあれば修正をお願いします。

将棋連盟が棋譜の著作権を主張し始めたのだが?2

棋譜の著作物性を否定する論拠の一つが、詳しく書かれていると思います。

日本複写権センターの「ケーススタディ

公益社団法人日本複写権センターケーススタディのコーナーで、次のような事例が掲載されています。(いつ掲載されたのかは、確認できませんでした)

参考になる棋譜が囲碁雑誌に載っていたので、そのページをコピーし、囲碁同好会でメンバーに配布した。

たとえ非営利の同好会であっても著作権者の許可なく雑誌記事のコピーを行い、配布することは違法となりますのでご注意ください。 但し、「棋譜」だけのコピーであれば、棋譜は著作物ではありませんので、著作権の侵害には当たりません。

http://www.jrrc.or.jp/guide/case/case10.html

上記の通り、棋譜は著作物でないという見解が表明されています。例えば、NHK将棋講座テキストに掲載されている棋譜を複写するために日本複写権センターに申請しても、手続不要と言われることになります。

一般的に、権利者団体は、その立場から、著作権の及ぶ範囲を広く主張することが多いのですが、そのような立場でも棋譜の著作物性を認めないというのは、棋譜の著作物性なしという意見が広く浸透しつつあることの象徴的な事例であると言えそうです。

[][] ニコニコ動画上での削除の件は結局どうなったのだろう

の続きです。1年以上間があいしまいました。情勢を追いかけたいない期間が長かったため、いろいろ見落としている可能性があると思いますので、ご存じの方はコメントでご教示いただけましたら有り難いです。

その後の削除状況

上記の件ですが、その後、棋譜著作権を理由にした削除は確認できなくなりました(ただし、棋譜の著作権を理由に削除された動画は削除されたままになっています)。そのかわり、肖像権を理由にした削除は、数は多くないように見えるものの、何件か見られました。

2012年2月までの削除は名人戦順位戦王位戦がほとんどでしたが、それ以降は棋戦に限定が見られないのが特徴です。しかし、これも2012年6月以降に投稿された動画では削除されているのが見つかりませんでした。(ご存じの方がいらしたら教えていただけると助かります)

2ちゃんねるの反応、日本将棋連盟対応

さて、2月終わりのこの件は2ちゃんねるでも話題を呼び、一般的な話題を扱うまとめブログでもこの件が取り上げられ、例えば下記のようなところから、このページにも多くのアクセスがありました。関心の高さがうかがわれます。

また、この件について日本将棋連盟に問い合わせた人が何名か2ちゃんねるに書き込みをしていました。

それによると、次のような返答だったそうです。

819 :565:2012/02/27(月) 20:00:20.66 ID:jYtOaMhl

>>565で問い合わせメールを日本将棋連盟に送った者です。
返信がきたのでご報告いたします。

要旨としては、

ニコ動で削除された動画は棋戦名や棋士名が記載されており、
動画の内容が著作権に違反している疑いがあるため
ドワンゴ社と将棋連盟で協議し、該当動画を一旦削除した。
ニコ動へのプロ公式戦に関する再生動画の公開は控えていただきたい。

というものでした。

問い合わせ内容は>>539をちょっと丁寧に書きなおしたものです。
ご参考まで。

将棋連盟が棋譜の著作権を主張し始めたのだが?

539 :名無名人 2012/02/26(日) 06:30:14.56 ID:Yu33Svkx

将棋の棋譜再生動画を作ってインターネットの動画サイトにて公開したいと考えております。
日本将棋連盟が将棋の棋譜の著作権を持っているとの事ですが、将棋の棋譜再生動画の作成および公開を許可していただくにはどのような手続きが必要でしょうか。
また棋譜の使用料が発生する場合、誰にどのように金額はどの程度お支払いすればよろしいでしょうか。

将棋連盟が棋譜の著作権を主張し始めたのだが?

ほかにも同様の返答を受けた人が複数名いたようです。その後、棋譜の著作権を理由にした削除がなくなったとすれば、日本将棋連盟は棋譜の著作物性を主張する立場とは言えないのかもしれません。

上記でリンクしたページでは、このコメントからいろいろ憶測が書かれていますが、私はコメントが正しいとしても、それだけを理由に日本将棋連盟の考えを推し量るのは難しいと考えます。パブリシティ権という言葉も出ていますが、私はそれも眉唾と思っています。

そして、その後、日本将棋連盟やニコニコ動画からこの件についての公式な発表は、私が見ていた範囲ではありませんでした。

また、窪田義行六段からこのページにコメントをいただいていました(この記事を書くにあたって調べるまで見落としており、お返事をできておらず誠に申し訳ありませんでした)。窪田六段によると、

具体的な規約整備に関しては、各種法規に関して門外漢ですので正直手に余ります。
棋士(正会員)に対してさえ、会報を始めとする公式文書で周知されていないと記憶しておりますので、公務に纏わる諸権利管理及び運用を将棋連盟(及び契約相手たるスポンサー)に委託している立場としては、遺憾でなりませんが。

コメント - 日本将棋連盟がニコニコ動画上の将棋関連動画を削除 - 勝手に将棋トピックス

とのことで(窪田六段の追加コメントに基づき、コメントを修正した上で引用してあります。)、日本将棋連盟所属プロ棋士でも著作権などの権利関係は難題のようです。「諸権利の管理及び運用を委託している」というのは、明示的な契約があっての話なのか、単に慣習的なものなのかは気になるところです。

いずれにしても、前回紹介した西尾明六段のツイートもあわせて、昨年の削除が日本将棋連盟内部で意志統一された中で行われたわけではなかったことは、はっきりしたと言えるでしょう。

一般の記事

そのほかにも、この件は普段将棋とは無関係な一般のメディアでも取り上げられました。

また、様々な人がこの件に関してTwitterでツイートをしました。下記にまとめられています。

2012年02月26日

[][] 日本将棋連盟による「棋譜著作権」の主張について

の続きです。

今回の動画削除に関して、将棋関連動画を削除することが将棋界においてどのような意味を持つのか、という点と、それに伴う権利の主張が正当かどうかという2つの問題が考えられます。より重要なのは前者だと思いますが、今日後者に関連して、私が以前から関心を持っている「棋譜の著作権」に関する話題について書きます。前者についても、後日書きたいと思います。

棋戦ごとの違い

2ちゃんねるの書き込みで指摘があって気づいたのですが、削除された動画が扱っていたどの棋戦の棋譜だったかによって、削除され具合に明らかな差が見られます。具体的には、名人戦順位戦王位戦女流王位戦が目立ち、残りは非公式対局((将棋) 羽生善治×渡辺明 (次の一手名人戦) 前編郷田真隆 × 三浦弘行 (解説:藤井猛) 1/3など)が主です。名人戦・順位戦が多いのは、名人戦七番勝負とA級順位戦最終節がNHKBSで生中継されるため素材が多いことから自然ですが、王位戦も目立つ理由はよくわかりません。そして、竜王戦NHK杯戦関係の動画で日本将棋連盟の申し立てによって削除されたものは、私が検索して探した範囲では見あたりませんでした。また、それ以外の棋戦についてはきちんと調べていませんが、見ない印象です。

このことから、動画削除を申し立てた人は、明らかに棋譜によって態度を変えていると考えられます。ただ、単なる棋士紹介の動画なども削除されていることから、特定の棋戦に関するものだけを狙い撃ちにするのが目的だったのか、ほかの棋戦はこれからということなのか、釈然としないところがあります。

特に棋譜と著作権についていくつか(続)で紹介したように、2011年3月に「棋譜の著作権」を否定する内容の記事が毎日新聞に掲載されたことをふまえると、毎日新聞が主催である名人戦・順位戦について、あえて「棋譜の著作権」を行使してくる理由が私にはわかりません。しかしいずれにしても、棋譜を自分の手で並べただけでプロ棋士の映像を利用しない動画のように、「棋譜の著作権」がなければ削除を申し立てられないようなものまで対象になっていることから、削除を申し立てた人は「棋譜の著作権」に訴える何かしらの理由があったのでしょう。

日本将棋連盟のこれまでの態度

日本将棋連盟が公式サイトshogi.or.jpドメイン上)で「棋譜の著作権」について言及したことはこれまで一度もありません。その他の対応については、wikipedia記述妥当だと思います。(今回の削除がすでに書き加えられました。)

日本将棋連盟は、過去には法的根拠は無い(棋譜に著作権は無い)とした上で、収入問題に発展しかねないので頒布を控えてほしいとの「お願い」をネットコミュニティに対して行っていた[9]が、最近では、棋譜に著作権ありとして、許諾を得ない掲載や転載を禁じているケースもあり[10]、必ずしもスタンス一定していない。一時、江戸時代の棋譜に著作権を主張し、物議をかもしたこともある(後に撤回された)。2012年2月現在ニコニコ動画於いては現役故人を問わず日本将棋連盟所属棋士の棋譜に著作権を主張し、棋譜を機械的に再生した動画を削除させている。

棋譜 - Wikipedia

一般的に考えると、「棋譜の著作権」については、大きく分けて次の4通りの態度が考えられると思います。

  • 1. 棋譜は著作物でないと認める。
  • 2. 棋譜の著作物性について、あいまいな態度を取る。
  • 3. 棋譜は著作物であると明確に主張するが、権利行使(動画削除を求めるなど)は原則としてしない。
  • 4. 棋譜は著作物であることを前提に、権利を行使する。

日本将棋連盟はこれまで2.の態度を取ってきました。(ちなみに、囲碁の日本棋院は3.です。)このことは、米長邦雄永世棋聖(現 日本将棋連盟会長)が2002年に『近代将棋』2002年7月号で次のように書いたことにも表れています。

棋戦の期間中ほぼ一年間は主催紙に総ての権利があり、それから後は日本将棋連盟と主催紙が共有です。この場合の権利という意味は、あくまでも独占掲載権であって、それが即ち著作権なのかどうかはわかりません。将棋界はそれで良いのであって、少々いい加減の処があります。

最近では、2010年9月28日西尾明六段がtwitterでつぎのようなつぶやきを残しています。

プロの棋譜であればそうなるんですかね。でも、かなりうやむやな気がします。"@yuusaku_takamu: @nishio1979 著作権はスポンサー&連盟?でしょうか。"

Twitter / 西尾明

@miyamotometi もちろん指し手に著作権はありません。ただ、新聞掲載以前の棋譜等には敏感なところもあります。

Twitter / 西尾明

あ、つまり指し手の著作権はないですが、棋戦や対局者を明記した棋譜全体に著作権が存在する可能性は考えてよいと思います。ちなみに対局の翌日に全棋譜をつぶやいたら、あとで怒られそうですw

Twitter / 西尾明

つまり、プロ棋士の間でも著作権についてどのようになっているのか、確固とした認識があるわけではなく、なんとなくあいまいなまま現在に至るというところだと思われます。

「棋譜の著作権」をめぐる趨勢

下記の2つの記事でも記したとおり、私は棋譜が著作物と認められる可能性はあると考えていますが、同時にその可能性は高くないとも思っています。特に、渋谷達紀『知的財産講義II 第2版 著作権法・意匠法』の出版以降は、棋譜の著作物性を積極的に肯定する見解が弁護士などの専門家から出たのを見たことがありません。

そのような情勢を今回申し立てを行った人が理解していたとすれば、今回削除された動画をアップロードした人が裁判に訴えることによって、棋譜の著作物性を否定する判例が生まれる可能性を視野に入れているはずです。日本棋院のように上の3.の態度で止まっていれば、紛争にならないので判例が出ることもありませんが、一気に4.に移行することによってそのような可能性を生じてしまっているわけです。

日本将棋連盟が2.の態度を取ることは、将棋ファンから見ると、「棋譜の著作権」を恐れる心理がある中で、それほど気にしない人によってそれなりの規模で棋譜が利用されるという状況です。このように、長年かけて育ってきた微妙なバランスが、今回の削除によって壊れる可能性があります。どちらに転ぶかわかりませんが。

棋譜の部分的利用

そんなわけで、棋譜の著作物性はあるかもしれないしないかもしれないという状況ですが、もし「ある」と仮定したときに、今回の申し立てにどのような問題があったのかを考えてみます。論点はいくつか考えられますが、私がもっとも問題と考えているのは棋譜の部分的利用に関するものです。

今回削除された動画には、名人戦などの対局を部分的に切り取ったものが多く含まれています。このような動画を「棋譜の著作権」を理由に削除するということは、たとえ棋譜を一部しかコピーしていなくても著作権侵害であると主張していることになります。これは受け入れがたい主張です。

棋譜がまるごと再現されることは、現実的に見て、過去の棋譜を複製されることとほぼ同じといえます(依拠性の問題はありますが)。しかし、様々な場面で、部分的な棋譜が再生されることは珍しくありません。たとえば、大盤解説会でプロ棋士が過去に指された対局でこんな手順があったと述べたとすると、これは部分的な棋譜が再生されたことになります。したがって、棋譜の部分的利用が著作権侵害になるならば、そのような場合でもいちいち著作権者の許諾を得る必要があります。この結論に納得する人はいないでしょう。

今回の一連の削除では、指し手が映像に映っていれば「棋譜の著作権」を理由に削除申し立てという安直なやり方がとられていましたが、これは棋譜の著作物性を肯定する立場の人から見ても許容されがたい手法だと考えます。棋譜の著作物性を肯定するにしても、ほぼ全局まるごと複製しない限り著作権侵害にならないという理屈がつくような論理構成を考えるべきです。

「棋譜の著作権」を主張する前にすべきこと

今回、日本将棋連盟は2.から4.に態度を変えました。たとえ、棋譜の著作物性が肯定されたとしても、この一足飛びの変更は性急すぎるといえます。

棋譜と著作権についていくつか(続)で紹介したように、日本棋院は「棋譜の著作権」を主張するにあたって、日本棋院とプロ棋士との契約関係などの整備を進めました。上で引用した西尾六段のつぶやきを見ても、日本将棋連盟でそのような契約が行われた形跡はないと言ってよいと思います。今回の削除は「公益社団法人日本将棋連盟」の名義で行われましたが、何も契約がなければ著作権者は著作者である対局者です。日本将棋連盟が著作権侵害を申し立てる立場にあったかどうか疑問です。

また、権利を主張するときは、同時に他者の権利を尊重する必要があります。今回削除された動画には、物故棋士や片方がアマチュアの対局も含まれていました。もし棋譜の著作物性を肯定するならば、日本将棋連盟に所属していないアマチュア棋士や、すでに逝去したプロ棋士の遺族などから、「棋譜の著作権」に関する許諾を得る手続きを済まなければ棋譜が利用できません。本当にそのような手続きができていたのでしょうか。

以上のように、今回の動画の削除には多くの問題があります。下記の26日の西尾六段のつぶやきからも、日本将棋連盟内部でこの件に関する意志統一ができているのか非常に疑問であり、今回削除申し立てをした人の暴走に近いのではないかという疑いを持っています。

これ初耳。確かに対象が棋譜というのは変な感じ。確認してみよ"@redipsjp: プロの棋譜をソフトで再生した動画について,将棋連盟が「棋譜の著作権侵害」を理由に削除を求めているらしいけど,無理筋ではないですかね。bit.ly/yUUNil"

Twitter / 西尾明

有料コンテンツの棋譜をほぼリアルタイムで垂れ流されることがあれば取り締まるべきだと思うが。棋士も新聞に載る前の棋譜をネットなどで紹介する際には制限が掛かる。

Twitter / 西尾明

ということで、「棋譜の著作権」の行使に関する疑問点について書きました。それとは別個に、そもそも動画を削除する行為がどうなのかという論点も重要です。これについては後日書きたいと思います。

追記:さらに調べたところ、王座戦で削除された動画が見つかりました。

しかし、動画の説明文に「王位戦、最終局までもつれましたね。」という記述があることから、王位戦の対局と誤認された可能性もあります。

それから、前回の記事で「対象物: 将棋連盟所属棋士の棋譜」という理由と「対象物: 棋譜」という理由の2種類がありその違いは不明と書きましたが、調べた範囲では、前者が名人戦・順位戦など、後者が王位戦という区別になっているようです。2度にわけて申し立てをおこなった際に、別々の記述がなされたということかもしれません。

 
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