『万物理論』はイーガンの代表作です。 ですが、イーガンの筆歴でもっとも地味な作品でもあります。物語のシチュエーションは、科学ジャーナリストがアインシュタイン没後100周年を記念した国際理論物理学者会議の取材に行くというものです。地味すぎます。 しかも、主なSFのガジェットである「万物理論」は、いわゆる「大統一理論」ですらありません。「大統一理論」はすでに定式化されていて、「万物理論」はその数学的基礎付けという設定です。つまり、「万物理論」をめぐる対立はただテクニカルなもので、現実への直接的な影響はありません。 物語のシチュエーションが地味なうえ、主人公もクズです。根暗で理屈っぽい性格で、自分と…