姓は石黒、名は政元。 どこぞの軍医総監殿と同じ名字であるものの、血のつながりは特にない。 越後国の産である。 物心ついた時には既に、彼は己の特性をはっきり自覚し終えていた。 どんな高所に立とうとも、少しも恐いと思えない。 他の童が脚を竦ます年代物の吊り橋を、鼻歌まじりに踏破する。家の屋根でも、鎮守の森の御神木でも、するする登って下界の眺めを楽しめる。なんならごろりと寝そべって、昼寝だって出来るのだ。 (『北越雪譜』より) 「坊ッ、危ない!」 良識的な周囲(まわり)の大人が悲鳴まじりに叫んでも、蛙の面に小便で毫も性行を改めぬ。どころかそういう年長者の狼狽を、 (どこが危ないのだ、こんな簡単な遊び…