〜文明開化の音がした〜 あれは、夏の昼下がりだったと思う。風鈴の音がチリンと鳴り、網戸越しにセミの声が響いていた。 ガタン――と音がして、母が洗濯機のフタを開ける。白い割烹着に三角巾、袖口には少し泡がついていて、手には石けんの香りが残っていた。 その洗濯機には、今のような脱水槽はなかった。洗い終えた洗濯物を、母はそっとローラーの間に挟み、くるくると手回しのハンドルを回す。 ギュルギュルという音とともに、水がぽたぽたと落ちていく。その音は、まるで家の中に流れる小さな川のようだった。 しぼり終えたタオルはぺったんこで、母はそれをパシンと勢いよく竿にかける。 「これで、カラッと乾くで」そう言う母の背…