額に汗をみなぎらせ、真蒼《まっさお》な顔に息使いも荒く、 西八条の邸に入ってきた行綱に、 家来達も驚いて、早速、清盛の所に知らせた。 「何、行綱だと? めったに来もしない奴が、 又何でこんな夜中にやって来たんだ? とにかくおそいから、わしは逢わん、 盛国《もりくに》、お前が、言伝てを聞いてこい」 清盛は傍らの主馬判官《しゅめのはんがん》盛国にいった。 暫くして盛国が戻ってきて、 「何か、直《じ》きじき、お話したいとか」 「直きじきだと? 一体何だろう?」 さすがに清盛も、行綱の唯ならぬ様子に、 何事か起ったのかと、不安になってきて、 自分で渡殿《わたどの》の中門まで出てきた。 「この夜更けに、…