詩集『春と修羅』(第二集)の「早池峰山巓」(1924.8.17)にミカン科のレモンの匂いが登場する。賢治が農学校の教師時代に詠ったものである。 「・・・九旬にあまる旱天(ひでり)つゞきの焦燥や/夏蚕飼育の辛苦を了へて/よろこびと寒さとに泣くやうにしながら/たゞいっしんに登ってくる/ ……向ふではあたらしいぼそぼその雲が/まっ白な火になって燃える……/ここはこけももとはなさくうめばちさう/かすかな岩の輻射もあれば/雲のレモンのにほひもする」(宮沢,1985;下線は引用者)とある。 「九旬」は仏教的には90日間であるが一般的には長い期間という意味である。「焦燥」は焦(あせ)っていらだつこと。旱天(…