春は旅立ちの季節。此処ではないどこかへ行ってみたくなる折柄。300余年前、そんな春のある日に旅に出た人がいる。江戸時代の俳人・松尾芭蕉である。1689年旧暦3月27日(新暦5月16日)のことだった。 「そぞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず、」(松尾芭蕉『奥の細道』序文より) 自分の中の旅心が沸々とわいてきて、とにかく旅に出たくてたまらなくなり、芭蕉は旅に出た。代表作の紀行俳句集『奥の細道』を産み出した旅である。 当時の芭蕉の住処は、江戸の深川だった。江戸時代初期、そこは隅田川河口の湿地帯で、深川という名の者によって開拓されて、ようやく村ができ、やがて街になっ…