昨年だったか、「線は、僕を描く」という小説を読んだ。家族を失ったことで心が空っぽになってしまった大学生の男性が、水墨画と出会うことで彩りを取り戻していくという物語だったように記憶している。 それまで水墨画といえば、TV番組でチラとみたりという程度でほとんど触れたことがなかった。だからか、ただぼんやりとした白と灰色と黒の濃淡でのみ描かれているだけの絵というイメージだった。しかし、水墨画で描かれた絵には奥行きがあり、彩がある。墨で書かれた薔薇の花が、白と黒で描かれたはずの作品に赤い色が見えるのだ。作品を通してそれらを知り、こんなにも美しいものなのかと驚愕したのを鮮明に覚えている。 線は、僕を描く …