「無礼者め、とっとと出て失せい」 その姿をにらまえた文覚、 「高雄の神護寺へ、荘園一つご寄進頂かぬ限りは、退出いたさぬ」 という。かっとなった資行判官は、 つかつかと文覚に近寄ると衿首《えりくび》つかんで外へ突き出そうとした。 と、文覚は手にした勧進帳を取り直すと烏帽子《えぼし》をいきなり叩き落し、 虚をつかれた資行の胸もとを拳で突き飛ばした。 資行はばったりのけぞって倒れた。 起き上ると恐怖にかられたのか広縁に逃げあがった。 そしておもむろに懐に手を入れた文覚は 、馬の尾で柄を巻いた刀を出すと鞘《さや》をはらった。 氷の刃がぎらっと光る、抜身を構えた文覚は近寄るものあらば刺さんという態度であ…