「意味が、揺らぐってどういうことなんですか?」 私は先生に問いかけた。デリダの本を読んでも、靄がかかったままだ。白鯨は何なんだ。神か、悪か、それともただのクジラか。 先生は静かに笑った。 「揺らぐというのは、意味がないわけじゃない。ただ、一つに固定できないということです。白鯨が“自然の脅威”にも、“神聖”にも読めるのは、そのテキストが自己矛盾を含みながら成り立っているからです。」 「でも、そんなふうに言えば、どんな解釈もアリになってしまうんじゃないですか? なんでも“相対的”って言えば、何でも許される気がします。」 先生は少しだけ姿勢を正した。窓の外でセミが鳴いていた。 「君は“相対的”という…