第二章

ガプーは焦れていた。（誰も知らないのか？封印の壺が隠された場所を言わない）小さな城の門前である考えを思いつく。（恐怖で支配してやろうか？人間どもに壺の在りかを探させた方が早いのでは） ニヤリと笑みを浮かべると城門に触れて砂に帰した。慌てて駆け寄る兵士達に大声で叫んだ。「我が名はガプー。暗黒魔道衆の一匹だ！封印の壺を探している。黙って差し出せ！無ければ探して眼の前に持ってこい。でなければここの人間全てを砂に帰すぞ」それを聞いて猛り狂う兵士達がガプーに襲い掛かるが、次々に砂に帰されて敗北を認めた。城の王の元まで行くと、同じ事を言った。だが、王に知らないと言われ、王を砂に帰し、兵士全員に告げた。「お…

スパンク城が在った砂地に辿り着くと、砂トカゲが僧侶ヨウガイに馬を止めさせた。「出でよ我が同士」僧侶ヨウガイの頭の中で響いた砂トカゲの声に砂地が波打った。数千にも及ぶ無数の砂トカゲが砂地を飛び跳ね出した。 「お待ちしておりましたダドゥ様」一匹の砂トカゲが答えると、僧侶ヨウガイと共にするダドゥ様と呼ばれた砂トカゲが問いかけた。「封印の壺は見つけられてないようじゃな」「はい、奴は封印の壺を見つける前にスパンク城を砂に帰しました」「相変わらず頭が悪いようで助かったよ」二匹のやり取りを聞いた僧侶ヨウガイが驚いた。「貴方様は一体何者なんですか」「おや？トカゲとは呼ばずに貴方様と呼んだか」言われて僧侶ヨウガ…

網いっぱいに魚を捕らえたレウリーが、馬にまたがり集落に戻ったのは夕暮れ時だった。集落の地が真っ赤に染まり、切り刻まれた者達が倒れている。「何だこれは？何があった」レウリーの声を聞いてディアマンデイが泣きわめいた。「うああああああああああああ」 レウリーは剣を両手で握り、血だらけになっているディアマンディを強く抱きしめた。そこへハリドが近づいてきて語りだした。「ディアマンディは、何も悪くない。剣を持ったこいつらが突然現れて、暴れだしたんだ。それを見たディアマンデイが、たった一人で、前の頭の剣を握ってこいつらを斬り倒したんだ」 レウリーは胸を痛めた。泣きわめくディアマンディの姿が、ヴァルゴウルで大…

岸辺で遊んでいた子供達が赤い闇ガラスをめがけて投げられた石つぶが沈黙を切り裂いた。それに気づいたレウリーが剣を抜いて闇ガラスに投げつけられた小石を切り裂き、振り放った。（どうして守ってくれた？ ） 闇ガラスは困惑している。 レウリーが子供達に声を荒げた。「おい！鳥も人も、生きているもの全て、痛い事は好まない。お前らは、俺に石を投げられたらどうだ？嫌だろ？痛い目にあいたくなければ辞めとけ。俺は優しくないぞ」 闇ガラスは、驚いて逃げ去る子供達をじっと眺めていた。 数日後、たった一人の剣士も居ないヴァルゴウルに放浪者達が辿り着いた。それは災いの始まり。「おい、本当にたった一人の剣士も居ないようだぞ？…

闇が魔を誘う夜。赤黒い闇ガラスの群れがガアーガアーと鳴き騒ぐ。山の中腹の森で夜をやり過ごす放浪者達の中には、酒を飲む者もいる。酒に酔う者は幻夢を見せる事が容易い獲物。闇ガラスの主ツスグスがニヤリと笑みを浮かべている。「君達は運が良いよ。この先の国ヴァルゴウルには、剣士が一人も居ないから、宿はタダで泊まれるし、飯も食い放題なんだ。女だって好きに出来るよ。何しろ、戦える者が一人も居ないのだからね。君達は剣を持っているかい？持っているなら剣のみが力さ。暴れたいだけ暴れなよ」 酒に酔う男達が剣を片手に、目をギラギラと光らせる。「それは確かに運が良い」 陰魔術が放浪者達を目覚めぬ夢へといざなった。 朝、…

その頃、山の集落ではレウリーが山の獣人達に木刀を持たせ剣の指南をしていた。「本気で斬りかかって来い。俺に木刀をかすらせる事でも出来たら褒めてやるよ」 一度に山の獣人十六人を相手にするが、誰もレウリーに触れる事すら出来ない。山の獣人全員が、ぜえぜえと息を切らしている。「これが剣の神様を知る男の剣」 ハリドが嬉しそうに目を輝かせている。ディアマンディも嬉しそうに、素振りをしながら眺めている。レウリーが木の枝に止まり、じっと見つめる闇ガラスに気づいた。「なあハリド。何か食い物ないか？あの赤い鳥に餌を与えたい」 言われたハリドがギョッとした。「あんな縁起の悪い闇ガラスに餌を与えるのか」「あの鳥は縁起が…

レウリーを追うジョウリーが山を超えて、宛もなく馬を歩かせ続けていると、大勢の放浪者達と遭遇した。「この先、どこへ行っても無駄だよ。どういうわけだか、どの国も鎖国状態で、門前払いだ。入れる国なんてどこにも無い」「あんたは、どこから来た？入れる国があるとしたら、あんたが居た国ぐらいだろう」 言われてジョウリーが疑問に思った。「どうしてそのような事に」「俺が聞いた話だと、治す方法も解らない疫病が流行っているからだそうだ」 一人の男が言った。それを聞いてジョウリーは、兄はどこへ向かっているのだろうか？と考えるが、想像もできない。「途中、誰か他の男とすれ違いませんでしたか？僕より一つ年上の二十二歳。僕と…