大正時代、円本の普及と共に、大衆受けは良いが、世俗的で品性の低い、文学的価値の乏しいテキストが大量に出回った。既存の作家達や、円本のような作品を卑しむ人々により、今までの文学はそういう大衆文学とは一線をかくしたジャンルであるとされ、それは純文学と名付けられた。もっとも、そうは言え、既得権益を守るために作った組合みたいな側面も多分にあった。 (こっちのほうがまとまってていいと思います)
その日は朝から、いつもとは違う風が吹いていたように思う。 朝の食卓につくと、いつもは半熟の目玉焼きの真ん中を箸で突き破ってから食べる父が、白身から黄身の周囲を丁寧にくり抜いてから口に運んでいた。どういう風の吹きまわしであろうか。 ちなみに父の右のほっぺたにはそこそこ大きなほくろがあって、その中心からは一本の毛がにょろりと生えている。わたしはそれを「父が目玉焼きの目を突きすぎてきたことによる呪い」であると考えてみたりもしてきたのだが、だとしたら今朝のような食べかたを続けていればほくろが丸ごとぽろりと剝がれ落ちる日がじきに来るのかもしれない。ほくろを黄身、その周辺の地肌を白身に見立てるとそういうこ…
もし、あなたが誰にも負けない圧倒的な『力』を手に入れたら、その力を何に使いますか? 今回ご紹介する墨谷渉さんの『パワー系181』は、そんな究極の問いを読者に突きつける、非常に刺激的でパワフルな一冊です。第31回すばる文学賞を受賞した本作は、身長181cmという恵まれた体格を持つ女性「リカ」が、その身体能力を活かして奇妙なビジネスを始める物語。読み進めるうちに、私たちの常識や倫理観は激しく揺さぶられ、物語の渦に飲み込まれていくことでしょう。 ネットのあらすじを読んで「これは絶対に面白い!」と確信して手に取ったのですが、その予想を遥かに超える衝撃が待っていました。今日は、そんな規格外の面白さを持つ…
「好きなのに、さびしい」——このどうしようもない感情の渦に、あなたも飲み込まれた経験はないでしょうか。今回ご紹介する大前粟生さんの『きみだからさびしい』は、まさにそんな恋愛の核心を突く物語です。 主人公は、恋愛に臆病な青年・圭吾。彼が好きになったのは、複数の人を同時に愛することができる「ポリアモリー」の女性、あやめでした。好きだからこそ生まれる独占欲や嫉妬心と、相手を理解したいという思いの間で揺れ動く圭吾の姿は、読む者の心を強く揺さぶります。
想田佑介は、いつも自分ばかり叱られているような気がした。周囲とまったく同じようなことをしているつもりなのに、いつだってなぜか自分だけが叱られる。しかもそのときに言われる台詞は、なぜかいつも決まっているのだった。 つい先日もそんなことがあった。早めに出社して会議室へ赴き、人数分の資料をデスクの上へあらかじめ配置していると、二番目にやってきた先輩社員の島村が、想田の肩を叩いてこう言った。「お前、そういうとこだぞ」 しかし想田には、何を叱られているのかがわからなかった。もしかすると、この資料を配付する行為をやめろと言われているのかもしれないが、会議に必要な資料なので配らないというわけにもいかない。そ…
芥川賞作家・田中慎弥が描く、初の本格恋愛小説『完全犯罪の恋』。主人公は、携帯もPCも使わない、四十代の作家「田中」。この設定に、多くの読者は著者自身の姿を重ね、物語の世界へと引き込まれていくでしょう。 しかし、本作は単なる私小説ではありません。40代の作家「田中」の前に、高校時代の初恋相手の娘「静」が現れることから、物語は過去と現在、そして文学の世界を往来する、切なくも美しい追憶のミステリーへと発展していきます。 「完全犯罪」という不穏なタイトルが示す恋の結末とは?
この小説は、あなたの倫理観を根底から揺さぶるかもしれない 今回ご紹介するのは、岸川真さんの短編小説『蹴る』です。この物語は、2015年に文芸誌『文藝』で発表され、後に作品集『暴力』に収録されました。タイトルが示す通り、本作が描くのは、ひたすらに生々しく、そして目的が見えない「暴力」そのものです。 物語は、主人公である中学生の康平が、先輩のケンと共に、夜の河川敷で一人のサラリーマンに暴行を加える場面から、不穏な幕を開けます。読者は、康平の視点を通して、まるでその場にいるかのような息苦しさと、得体の知れない恐怖を味わうことになるでしょう。しかし、この物語の本当の恐ろしさは、単なる暴力描写に留まりま…
「夏は八月の十五日まで。海にクラゲがでたら、夏は終わりなのよ」 もし、あなたの17歳の夏が、あと一週間で終わるとしたら、何をしますか?伊藤たかみさんの『17歳のヒット・パレード(B面)』は、そんな終わりかけの夏に偶然出会った少年と少女の、短くて、でも永遠のような数日間を描いた物語です。 どこか懐かしくて、少しだけ危うい。そんな青春時代の特別な空気感が、この本にはギュッと詰まっています。ページをめくるたびに、あの頃の夏の匂いがよみがえってくるような、不思議な魅力を持った一冊です。
自分が書いてるもののジャンルに悩む。 あわせてよみたい 自分が書いてるもののジャンルに悩む。 おはようございます。今日も例によって創作地獄にどっぷり浸かってるわけだけど、これがまたなんとも言えず楽しい。自分でも思うんだけど、最近の僕はかなり危ない人に見えるんじゃないか。ふと気付くとニヤニヤしてるし、1日中、頭の中で自分だけの世界が膨らみ続けてる。これはもう、周囲から見れば立派なヤバい人認定だろうなと思う。 でもね、こういう状態って、人生の楽しみのひとつだと本気で思ってる。創作って、結局自分がいかに夢中になれるかが全てだし、むしろこの楽しさを増やすために、創作以外の時間も使っていいんじゃないかっ…
大手出版社の最終候補に複数回残りました。出版社の賞レースが望む作品ではなく、好きな作品を書いてたら、時間があっという間に経っていきました。その作品をネット販売すると、無広告で数百万円の利益が出ました。 それにしても、あっという間の時間の流れ、時間って本当に扱いにくいコです。時間はいうことを訊きません。時間は待ってもくれません。時間は平等です。時間しか平等ではありません。でも人生は不公平です。世の中の通過が、お金じゃなくて、時間になるのだとしたら・・・あなたはどんな仕事をしたいですか?
藤野可織さんの短篇集『おはなしして子ちゃん』を読み終えました。以前読んだ『ドレス』を読んで興味を持った作家さんです。『おはなしして子ちゃん』もその世界観に一気に引き込まれてしまいました。この短篇集には、私たちの日常のすぐそばに潜む、少しだけ歪んだ、あるいはゾッとするような出来事が詰まっています。読んでいると、まるで現実と非現実の境界線が曖昧になっていくような不思議な感覚になります。