童話『銀河鉄道の夜』第四次稿は,地上世界はアラビア(イスラム教)風で,天上世界(=死後の世界)はキリスト教的景観を示しているが,物語には表に現れない形で日本の仏教思想,特に経典の1つである「法華経」の思想が色濃く取り込まれているように思える(定方,1995;吉本,2012,石井,2013a,2013b,2014,2015a,2015b,2016b)。 「法華経」などの経典によれば,釈迦の教えが説かれたのは「霊鷲山(りょうじゅせん)」という山とされているが,この聖なる山に相当するのは『銀河鉄道の夜』では「五,天気輪の柱」と「九,ジョバンニの切符」の章にでてくる「黒い丘」である。この「黒い丘」に登…