海松や 時ぞともなき かげにゐて 何のあやめも いかにわくらん からだから魂が抜けてしまうほど恋しく思います。 私はこの苦しみに堪えられないと思う。 ぜひ京へ出て来ることにしてください。 こちらであなたに不愉快な思いをさせることは断じてない。 という手紙であった。 入道は例のように感激して泣いていた。 源氏の出立の日の泣き顔とは違った泣き顔である。 明石でも式の用意は派手にしてあった。 見て報告をする使いが来なかったなら、 それがどんなに晴れをしなかったことだろうと思われた。 乳母《めのと》も明石の君の優しい気質に馴染《なじ》んで、 よい友人を得た気になって、 京のことは思わずに暮らしていた。…