第2話:貸金庫番号387番 東京帝都銀行・本店営業部――。その地下には、巨大な貸金庫がある。 全国の支店に「貸金庫」は存在するが、本店営業部にだけは特別な役割を持つ男がいる。“貸金庫番”――。その名を持つ、唯一無二の職務。 男の名は、笹倉博史。昨年定年を迎え、今は嘱託としてこの地下の貸金庫室を預かっている。 「いい人ですよ、あの方は」誰に聞いても、そう返ってくる。誠実で、人懐っこく、嘘がつけない。だがその性格ゆえか、銀行員としては出世とは縁遠かった。課長止まり。地味に、静かに、銀行員人生を終えた。 若い頃は不良債権の裏方、四十代は住宅ローンのフロントを渡り歩き、五十を越えてからは遺言信託のアド…