閉店──「今日で全部片付ける。もうここには二度と来ないから」35年間、仕事関係で微力ながらサポートしてきた水産物の小売店。社長である彼女は、訪ねて行った私にそう言った。その言葉の真意はわからないけれど、そこには複雑な思いがあることは、痛いほど伝わってきた。 およそ30年前、日中国交正常化から年月は経っていたが、一般的な往来はまだ本格化していなかった頃。彼女は、単身で中国から日本に嫁いできた。初めてご主人(前社長)とともに挨拶に来てくれた時の初々しい姿を、今でも覚えている。日本語もまだ片言で、自信がないのか、いつもご主人の後ろに控えていた。けれど、子どもを育てながら懸命に日本語を覚え、やがて店の…