『風の歌を聴け』/村上春樹/講談社文庫/1982年刊 小説とエッセイの違いについて考えていた。考えるともなく、ぼんやりと。 小説は作り話で、エッセイは実際に起きたことだ、一般的にはそう思われているらしい。私も十代の頃はそう区別していたような気がする。でも実際に起きたことをそのまま書くのは、難しいというより不可能だ。 日時や場所、居合わせた人々、どんな天気で、誰がどんな服を着ていたか等々、あらゆる事象の中から何を書くか(何を書かないか)、取捨選択をしないことには進まない。書こうと決めたことにぴったりな言葉が見つかるとも限らない。見つかったと思っても、文章として組み立てた途端に意味を見失うこともあ…