「死んだ兵の食事奪い合い、自分の生に執着」 真珠湾攻撃から77年、戦地の記憶今も - 神戸新聞NEXT(2018年12月8日)

https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011886043.shtml
http://web.archive.org/web/20181208140511/https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201812/0011886043.shtml

ごう音とともに動かなくなった先輩、やせこけて死んでいく同僚−。元海軍衛生兵の井上耕作さん(96)=兵庫県姫路市=は今も寝床に入ると、戦地の記憶がよみがえる。西太平洋のトラック島で直面した空襲と飢餓。「自分の生だけに執着し、他人の死には無関心になった」と振り返り、「あんな状況が二度とあってはならない」と強く願う。あの戦争の戦端を開いた旧日本軍による米ハワイ・真珠湾攻撃から8日で77年となる。(小川 晶)
神崎郡出身の井上さんは高等小学校を卒業後、百貨店勤務などを経て1942(昭和17)年に志願して海軍に入った。前年の12月8日に太平洋戦争が始まり、父親から「どうせ兵隊になるなら早いうちに」と勧められたという。
広島の呉海軍病院などで看護の経験を積み、43年末ごろにトラック島の病院に配属された。飛行場が整備され、連合艦隊も寄港する海軍の一大拠点。透き通った海をサンゴ礁が埋め、大小さまざまな島が浮かぶ美しい光景が広がっていた。
44年2月、米軍の航空部隊が同島を急襲。井上さんは防空壕(ごう)に逃げ込み毛布にくるまったが、大きな衝撃を感じた。壕が崩れ、隣にいた先輩の腹部を焼夷(しょうい)弾が貫通していた。死傷者が続出し、病院の廊下は真っ赤に。爆弾投下と機銃掃射の合間をぬい、担架を持って走り回った。
島への米軍の上陸はなかったが、船舶や飛行場などが壊滅的な被害を受け、機能を失った。補給路も途絶え、孤立した日本軍は自給自足で飢えをしのいだ。一日の食事は、細いイモとまぶすように添えられたご飯だけ。栄養失調で動けなくなった兵士は、板張りの部屋の薄い毛布の上に並べられた。
じきに便や尿を垂れ流すようになり、尻にうじがわいて、朝になると亡くなっている。その分の朝食を、動ける兵士がわれ先にと奪い合う。
井上さんも空襲で先輩が亡くなった時にはこぼれた涙が、全く出なくなった。当時の心境を「自分のことばかり考えて、他人なんか放っとけという感じだった」と振り返る。
同島の日本軍は孤立したまま、45年8月15日を迎えた。敗戦の玉音放送を聞いた井上さんは、生き延びた喜びから「やったあ」と叫んだ。真珠湾攻撃の一報を内地のラジオで聞いた時に口から出た言葉も「やったあ」だったと思い出した。
復員後、生還した同僚らと文通を続けたが、みな亡くなった。戦地での経験を語れる人が日ごとに少なくなる中、井上さんは「人の死は、家族にみとられ、惜しまれて迎えるもの。誰にも気に掛けられず、一人きりで息絶える戦場での死者を、二度と出してはならない」と力を込めた。

(政界地獄耳)安倍政権、責任は生ずるが責任取らず - 日刊スポーツ(2018年12月8日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201812080000182.html
http://archive.today/2018.12.08-002949/https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201812080000182.html

★国内政治はさして審議もせず、強行採決で法案が可決。既に議会は不要だ。審議も議論も不要。なんでも政府与党が可決する。国民はスピード可決に安心だ。ところが、政府鳴り物入りで進めている原発輸出は失敗続き。政府や三菱重工業などの官民連合で進めていたトルコの原子力発電所の建設計画は断念することになった。

★首相・安倍晋三は20年の東京オリンピック(五輪)誘致の時「フクシマについてお案じの向きには私から保証をいたします。状況は統御されています。東京にはいかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません」とアンダーコントロールを強調していたが、世界がそれを信頼しているのならば、日本と並ぶ世界有数の地震国・トルコの原発輸出は何の問題もなかったのではないか。安全基準の強化を受けた事業費の高騰で原発は採算をとるのが極めて難しくなったという。安全対策を整備するには採算が合わない。経団連を引き連れての俯瞰(ふかん)する外交の破綻だ。

★その経団連会長・日立製作所会長の中西宏明は日立製作所が英国で進めてきた原発建設計画が暗礁に乗り上げていると認めた。こちらも原発の安全対策で事業費が膨らむなど事業の採算性に疑問符が付いている。日本と原子力協定を結んで売り込んだ国はベトナムリトアニア、台湾、カザフスタン、ヨルダン、アラブ首長国連邦、インド。どれも進んでいるとは言い難い。政権は原発輸出をアベノミクスの成長戦略と位置付けていたが、世界の潮流とも逆行しているといえる。問題はこれを失敗と認めず交渉途中と言い張るところだ。「最近も首相が米トランプ大統領に売り込んでいた官民ファンドで進めるJR東海の子会社が主導するテキサス新幹線構想。これも進んでいない」(財界関係者)。官民は結構だが、税金投入して失敗は責任が生ずるもの。この政権は責任は生ずるが取らない。(K)※敬称略

入管法改正案 成立へ 与党、参院委で採決強行 - 東京新聞(2018年12月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018120890070906.html
https://megalodon.jp/2018-1208-0931-13/www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018120890070906.html


外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案は八日未明、参院法務委員会で自民、公明の与党などの賛成多数で可決した。この後の参院本会議で可決、成立する見通しだ。医師や弁護士など専門性の高い職業に限定していたが、幅広い分野での受け入れに道を開く政策転換となる。立憲民主党など野党は、安倍晋三首相と山下貴司法相に対する問責決議案を提出して抵抗した。野党側は法案の問題点が浮き彫りになったとして、慎重な審議を求めたが、与党は採決を強行した。衆参両法務委員会での審議時間は計約三十五時間。これまでの重要法案に比べ、極端に短い。 (村上一樹)
与党側は七日に法案成立を図る方針だった。しかし、法務委員会での採決に先立ち、野党側が同日午後、山下法相への問責決議案を参院に提出したため、委員会は一時中断となった。問責決議案は自民、公明両党の反対多数で否決された。
立民などの野党は同日夜、安倍首相に対する問責決議案を参院に提出した。与党などの反対多数で否決された。
日付が変わった八日午前零時十分、再開された参院法務委員会で、横山信一委員長(公明党)は質疑の終局を宣言した。締めくくりの討論後、横山氏が採決すると宣言するのを阻止するため、野党議員はマイクを奪おうとした。横山氏はもみくちゃにされながらも、採決を強行した。
首相問責決議案の質疑で、立民の難波奨二氏は新たに設ける在留資格「特定技能」の技能水準について「改正案に具体例が出てこず、法案の中身はずさん極まりない。国会軽視も甚だしい」と批判した。
自民党岡田直樹氏は、改正案が外国人の受け入れ人数などを示していない点について「首相は法施行の前に制度の全体像を示すことを明言した。国会軽視という批判は当たらない」として擁護した。
改正案は、新たな在留資格として一定の技能が必要な業務に就く「特定技能1号」と、熟練技能を要する「特定技能2号」を設けることが柱。1号は在留期限が最大五年で家族は帯同できないが、2号は期限の更新と配偶者と子どもの帯同ができ、条件を満たせば永住にも道が開ける。外国人技能実習生から特定技能者への移行も可能となる。

外国人労働者拡大「政府に白紙委任
外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案は、在留資格の技能水準などを定めず、具体的な制度設計は法成立後の法務省令などで決める。法案には「法務省令で定める」との記述が三十カ所を超える。省令は国会審議を経ずに、政府の判断だけで決めることができるだけに、野党は「法案の中身を政府に白紙委任することはできない」と反発している。 (坂田奈央)
「具体的な内容が法務省令に委任されている箇所が目につく。分かりにくいように思われる」。自民党元栄太一郎氏は六日の参院法務委員会で、こうただした。法務委の理事を務める自民党の委員が、法案の分かりづらさを認めた発言といえる。
立憲民主党小川敏夫氏は七日の参院本会議で「法律が通った後にすべてを決めるのは白紙委任で、立法権の放棄だ」と指摘した。
省令で定めるのは、新たな在留資格を得る外国人の技能水準や、技能水準を判断する試験内容、法律で禁止した外国人への差別の具体的な内容など。政府は受け入れるのは技能を持った外国人だけで、単純労働を認めるわけではないとしているが、省令で技能水準を低くすれば、事実上の単純労働者の受け入れになる。
大島理森衆院議長は先月二十七日、改正案について「政省令事項が多岐にわたると指摘されている」と苦言を呈した。

与野党、最後の攻防 入管法改正 - 東京新聞(2018年12月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201812/CK2018120802000125.html
https://megalodon.jp/2018-1208-1022-40/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201812/CK2018120802000125.html

入管難民法などの改正案を巡り、与野党は七日午前から八日未明まで、攻防を繰り広げた。
最も緊迫したのは、自由党森裕子幹事長が七日の参院本会議で、否決された堂故茂参院農林水産委員長(自民党)の解任決議案を巡り、動議で制限された十五分間を超えて演説を続けた時だ。
伊達忠一議長は「発言を禁止します」「降壇しなさい」と注意を繰り返したが、森氏が聞き入れず演説を続けたため、周囲に集まった与野党議員に「(森氏を)連れていけ」と声を張り上げた。
与野党協議の際、自民党の大家敏志議員が立憲民主党白真勲氏に暴言を吐くなど小競り合いもあった。
立民は白氏が大家氏に「小突かれた」として反発した。影響で国会は約四時間空転し、改正案の採決が遅れる一因となった。
立民の芝博一参院国対委員長は「(大家氏は)暴言を吐き、暴力に近い形で小突いた」として、自民党の関口昌一参院国対委員長に抗議。関口氏は「大家氏が理事を辞任する」と伝え、事態は収拾された。
関口氏は「(大家氏)本人に暴力という意識はなかったが、相手に不快感を持たせた」と記者団に釈明。この後の議運委理事会で、大家氏が白氏に直接謝罪した。
与野党の対立が激しくなった影響で、参院本会議は何度も開催された。午前の本会議では、野党が六日に提出した横山信一参院法務委員長(公明党)と、堂故参院農林水産委員長に対する解任決議案が、与党などの反対多数で否決された。
午後は、野党が山下貴司法相と安倍晋三首相に対する問責決議案をそれぞれ提出。その都度、本会議が開かれ、野党は法案の成立を急ぐ山下法相や安倍首相の姿勢を批判した。

改正入管法成立 外国人単純労働にも - 毎日新聞(2018年12月8日)

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20181208/k00/00m/010/023000c
http://archive.today/2018.12.08-012406/https://mainichi.jp/senkyo/articles/20181208/k00/00m/010/023000c

外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正案は8日未明の参院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立した。野党は慎重審議を求めたが、与党は採決に踏み切った。来年4月1日の施行予定で、事実上、単純労働を含む分野でも外国人労働者を受け入れる、政策の大転換となる。政府は介護や建設など14業種で検討し、今後5年間の受け入れ規模を「最大34万5150人」と試算している。
今回の改正は、一定の知識や経験が必要で家族を帯同できない「特定技能1号」(通算5年まで)と、より熟練した技能が必要で、家族の帯同を認める「特定技能2号」(在留期間更新可)という新たな在留資格を設けることが柱だ。
改正は受け入れ分野や5年間の受け入れ上限人数など詳細な制度設計を盛り込んでいない。これらは法務省が年内に策定する「分野別運用方針」に盛り込む。政府は地方自治体の相談窓口の一元化や医療機関の態勢整備など受け入れに向けた総合的な対応策も年内にもまとめる。
参院法務委は改正案の採決に伴い、「分野別運用方針」に明記する受け入れ人数を上限として運用することを求めるなど10項目の付帯決議を自民、公明、国民民主、維新などの賛成多数で採択した。
立憲民主党など野党5会派は成立を阻むため、入管法を所管する山下貴司法相の問責決議案を7日午後、参院に提出したが、改正案採決に先立つ同日夜の参院本会議で、与党などの反対多数で否決された。野党はさらなる採決引き延ばしを図るため、安倍晋三首相の問責決議案を参院に提出したがこれも否決された。
参院は7日午前からの本会議で、立憲など野党5会派が共同提出していた横山信一法務委員長(公明)の解任決議案を与党などの反対多数で否決。続いて、立憲と希望の会(自由・社民)が共同提出した堂故茂・農林水産委員長(自民)の解任決議案も同様に反対多数で否決した。
同日午前からの本会議で、与党の議院運営委員会の理事が野党理事に暴言を吐いたなどとして野党は猛反発。与野党が断続的に協議し、審議は与党の当初見通しから5時間以上遅れた。
参院法務委での審議時間は20時間45分。衆院法務委での審議を合わせても近年の重要法案を下回る38時間にとどまっている。【松倉佑輔、遠藤修平】

入管難民法の改正 「共生」の国はどこへ - 東京新聞(2018年12月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018120802000140.html
https://megalodon.jp/2018-1208-1024-31/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018120802000140.html

なぜ、それほどまでに急ぐのか。外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正である。議論不足の見切り発車では禍根を残す。
参院法務委員会での法案審議が大詰めを迎えた六日、安倍晋三首相は、来年四月に予定する法律の施行前に「法制度の全体像を国会に報告したい」と答弁した。
衆院での法案審議の在り方を憂慮した大島理森衆院議長が自民、公明の与党に法施行前の政府報告と再質疑を求めたことに応えたものだが、首相の発言は改正法が生煮えで、不備も多いと、認めたも同然だ。

◆国会への冒涜に等しい
本来であれば、法制度の全体像は国会提出前に政府部内や与党内で綿密に組み立てられ、それを基に国会で十分な審議時間をかけて議論されるべきだ。
全体像を明らかにしないまま国会審議を強引に進め、成立さえすれば、あとは政府の思い通りになるという安倍政権の政治姿勢は、唯一の立法府である国会を冒涜(ぼうとく)するに等しい。断じて許されない。
首相発言を引くまでもなく、この改正法には多くの問題が残る。
外国人労働者の受け入れを拡大する新制度は人材確保が困難な産業分野で一定の技能を持つ「特定技能1号」と熟練技能に就く「特定技能2号」の在留資格を設けるのが柱だ。
しかし、新制度は来年四月開始だけが確定したようなもので、外国人労働者が来日して働き始めた場合、さまざまな困難を予感させる杜撰(ずさん)な制度設計である。
外国人労働者の円滑な受け入れには労働者自身やその家族の日本語教育、医療・福祉などの生活支援策といった整えるべき施策がいくつもある。生活者として迎えるには、地域社会との摩擦を避けるための対応策も必要だ。

◆過酷な実態が続く恐れ
そうした態勢の整備は、どの産業分野や地域に外国人労働者を何人受け入れるのかを明らかにすることが前提だ。政府は十四業種で初年度は三万三千人から四万七千人の受け入れを見込むとはしているが、業種別・地域別の数字は明らかにしていない。これでは具体的な対応策がとれるはずがない。
来年四月のスタートは、見切り発車と言わざるを得ない。これを甘く見れば外国人技能実習生の悲劇の二の舞いになるだろう。日本で技術を学ぶ国際貢献の制度であるはずが、多くは単純労働者として酷使されているのが実態だ。
二〇一五〜一七年の三年間で、外国人技能実習生の計六十九人が死亡していたという。実習中を含む事故死や病死のほか、自殺も複数人いた。法務省の集計である。実習生の労働現場は予想以上に過酷で非人道的だったのかもしれない。看過できない問題だ。
新制度で来日した外国人がそうならない保証がどこにあるのか。
しかも「特定技能1号」の人は家族帯同が認められない。それ自体が人権上の問題だし、働く期間は永住権取得の要件である「国内就労」に算入しないという。これは人間としてでなく、単なる労働力としてのみ存在を認めるという意味ではないのか。
この発想は技能実習制度の引き写しにほかならない。新制度で外国人の劣悪な労働環境が固定化する可能性さえある。昨年失踪した技能実習生の67%が最低賃金をも下回っていた。新制度では「日本人同等以上」の賃金をうたうが、それは最低賃金を指すのかもしれない。景気の調整弁に外国人を使おうとしているのか。
何度も主張したい。人道上の問題が明るみに出ている技能実習制度は廃止すべきだ。同時に新しい在留資格をつくるにしても、受け入れ態勢が整うまで法施行を見合わせるべきである。悪質な仲介業者を排除する取り決めも必要だ。
二〇二〇年には東京五輪パラリンピック、二五年には大阪万博が開かれ、多くの外国人が訪れるだろう。多文化共生社会は目指すべき方向でもある。
しかし、一連の国会審議では、詳細な制度設計ばかりか、最も重要な外国人との「共生の思想」はほとんど議論されなかった。外国人労働者を安価な労働力としか考えないような身勝手な発想では、国際社会で尊敬はされ得まい。

◆強引審議が目立つ与党
十月に始まった臨時国会では、通常国会に続き、与党が審議を強引に進める場面が目立った。水道法の改正は自治体の水道事業に、漁業法の改正は漁業に、いずれも企業の参入を促すものだが、与党は慎重審議を求める野党の声に耳を貸さず、採決を強行した。
外国人労働者の受け入れ拡大を含め、これらは政策の大転換だ。強引な審議を繰り返すようでは、国民の理解は得られまい。国会軽視はもはや許されないと、安倍政権は肝に銘じるべきである。


就労外国人 改正入管法成立へ 国会を空洞化させた自民 - 毎日新聞(2018年12月8日)

https://mainichi.jp/articles/20181208/ddm/005/070/140000c
http://archive.today/2018.12.08-012552/https://mainichi.jp/articles/20181208/ddm/005/070/140000c

国の将来を左右する重大なテーマについて審議を尽くし、全体的な合意を図る自覚が今の国会にあるのだろうか。強い疑念を覚える。
外国人労働者の受け入れ拡大へ向けた入管法改正案が参院本会議で可決され、成立する。
委員会での審議時間は衆参両院でわずか38時間だった。カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法を先の通常国会で成立させた際も与党は審議を急いだが、委員会審議は40時間を超えていた。それと比較しても入管法改正案の扱いは軽すぎる。
法案についての自民党内の事前審査は紛糾し、法務部会の開催は6回に及んだ。それだけ重大な法案だと自民党も認識していた。ところが、おざなりな国会審議で済ませた背景には、深入りして議論したくない事情があったと考えざるを得ない。
第一に指摘できるのは外国人労働者の受け入れ拡大を嫌う右派の存在だ。安倍晋三首相のコアな支持層であり、国会で自身が答弁する場面をできるだけ減らしたいという思惑が働いていたようにみえる。
もう一つは法案の構造的な欠陥だ。来年4月の統一地方選で人手不足対策としてアピールはしたいが、入国管理政策の転換と位置づければ支持層の離反を招きかねない。そう考えた結果、問題の多い技能実習制度を土台とする応急的な制度の立て付けになったのではないか。
「議論したらキリがない。いくらでも問題点が出てくる」と衆院法務委員会の自民党理事が漏らしたのは本音だろう。参院法務委では与党が約1時間の質問時間を放棄した。
「安倍1強」のもと、首相の意向を与党が優先し、国会を軽んじる傾向は年々強まっているが、ここまで露骨に審議を空洞化させて恥じないのは、明らかに立法府の危機だ。
そもそも法案が具体的な制度設計を法務省令に委ねているのは致命的だ。見かねた大島理森衆院議長が法施行前に制度の全体像を国会に報告するよう求めたのは一つの見識だが、それで済む話ではない。
技能実習制度を段階的に廃止し、就労目的の在留資格に一本化すべきだ。外国人への生活支援や日本語教育なども含む総合的な政策パッケージを早急に法案化し、来年の通常国会で徹底審議することを求める。

改正入管法成立へ 多くの課題を残したまま - 朝日新聞(2018年12月8日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13803208.html
http://archive.today/2018.12.08-012711/https://www.asahi.com/articles/DA3S13803208.html

外国人労働者の受け入れ拡大を図る出入国管理法改正案は、政府与党の強引な国会運営で成立する見通しとなった。
少子高齢化に伴う人手不足が深刻化するなか、受け入れの必要性自体は多くの人が理解するところだ。だが円滑に進めていくには、文化や言葉の違いを超え、同じ社会でともに生きていく覚悟と準備が求められる。
そこに向けて、議論を重ね、幅広い合意を形づくることが政治の役割だ。その地道な努力を放棄し、数の力で法案を押し通す。将来に禍根を残す振る舞いであり、到底認められない。

■思惑先行の果てに

これまでも立法府を軽視してきた安倍政権だが、今回その体質をますますあらわにした。
どんな業種に、どれくらいの数の外国人を受け入れるかは、制度の根幹だ。にもかかわらずそれらは法成立後に省令で決めるとし、質問されても「検討中」を繰り返した。
ごまかしの説明も多かった。
非専門職の就労に初めて門戸を開くのに、「従来の方針を変更するものではない」と言い張る。新設する在留資格「特定技能1号」で働く人の約半数、業種によっては100%が、現行の技能実習制度から移行するとの見込みを政府自らが示しながら、「二つの制度は全く別のものだ」と強弁を続ける。
参院法務委員会での審議に臨む前には、安倍首相が「ややこしい質問」を受けなければならないと発言した。国会を愚弄(ぐろう)する象徴的な光景だった。
なぜ生煮えの法案をつくり、拙速に成立をめざしたか。透けて見えるのは打算や思惑だ。
来年の統一地方選参院選に向けて、人手を確保したい産業界の支持を得たい。一方で、外国人の増加を警戒する政権の支持層もつなぎとめたい。その帰結が、政府が描く「単身で来日し、働き、やがていなくなってくれる労働者」像といえる。
在留期間に上限がなく、家族も帯同できる「特定技能2号」の資格もある。だが定住に道を開くとの指摘を受けると、政府はその要件は厳しいものだと言い出し、規定はあるが実現性の薄いものになろうとしている。ご都合主義というほかない。

■無にされた教訓

外国人政策は多くの国が失敗と試行を重ねてきた難題だ。
ドイツは、戦後受け入れた出稼ぎ労働者が国を分断する一因になったと総括し、移民を認める方向にカジを切った。同じ社会の構成員として暮らしていくための支援に力を注ぐ。技能実習と似た制度が多くのトラブルを生んだ韓国は、これを廃止。04年に政府が前面に出て受け入れを調整する仕組みにし、やはり共生を重視する。
こうした国々の経験から何を学んだのか。法案や国会審議からはついに見えなかった。
逆にはっきりしたのは、新制度の土台である今の技能実習制度がもつ数々の問題点だ。
実習生の多くが、最低賃金以下での長時間労働を強いられたり、暴力を振るわれたりし、中には中絶を迫られた例もある。野党による聞き取りや参考人質疑などを通じて、深刻な人権侵害状況が明らかになった。
法務省は、実習生の調査を通じて内実を知りうる立場にありながら、是正に取り組まず、教訓をくむこともしなかった。それどころか、いい加減なデータを国会に提出し、審議を混乱させた。山下法相は、詳細を調査し来年3月までに実態を解明すると表明したが、順序が逆だ。
技能実習制度を温存することは、もはや許されない。

■求められる抜本対応

改正法案が成立しても、課題は山積みのままだ。
新たに外国人労働者を受け入れる際に行われる技能試験などは全く形が見えない。生活していくうえで必須の日本語習得の支援など、受け入れ態勢づくりもこれからで、現場を抱える地方自治体には不安が広がる。
これらの業務を担当させるため、法案は法務省入国管理局を格上げし「出入国在留管理庁」を新設するとしている。
だが先の実習生調査への対応は、「管理・摘発」を任務としてきた組織が「支援・保護」の発想を持つ難しさを浮き彫りにした。ノウハウもなく、適切な担い手とは到底言えない。
外国人問題に詳しい識者たちはかねて、政策を総合的・横断的に進めるために出入国管理法にかわる法律を制定し、「多文化共生庁」のような組織を設けるべきだと訴えてきた。将来を考えれば、今回のような弥縫(びほう)策ではなく、そうした抜本的な対応こそが必要だ。
すでに大勢の外国人が日本で生活し、社会を支えている。だが一部の自治体や住民は別として、多くの人はその姿を直視せず、「わがこと」として考えてこなかった。国会審議はその現実もあぶり出した。
共に生きる道を考える。それは、この社会に生きる一人ひとりにも課せられた役目である。

自民の改憲案提示「先送り」は衆参ダブル選への布石なのか - 日刊ゲンダイDIGITAL(2018年12月8日)

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/243247

改憲案提示の先送りは周到に練られたシナリオなのか――。
自民党は、この臨時国会で、自衛隊明記など改憲4項目を憲法審査会に「提示する」ことを予定していた。憲法審の定例日は木曜だが、今国会で最後のチャンスだった6日の開催は見送られた。そのため、「改憲発議は遠のいた」「来年1月召集の通常国会での提示を目指す」などと報じられている。
「先月29日に与党側が憲法審の開催を強行し、猛反発の野党に配慮した格好ですが、先送りは想定内です。今国会では“野党が議論を放棄した”という形を国民に見せることが重要だった。通常国会でも、憲法審で議論が進まなくて結構。“それなら国民に聞いてみよう”と、衆参ダブル選のテーマにし、一気に改憲機運を高めるプランもあります。改憲とダブル選をチラつかせることで、政権は求心力を維持できる。うまい手ですよ」(自民党ベテラン議員)
通常国会の召集は1月下旬になる見込み。参院選は7月4日公示、同21日投開票の日程が有力だ。自民党の甘利選対委員長は1日、大津市での党会合で、衆参同日選について「何があってもいいように備えてほしい」と呼びかけていた。衆参同日選の可能性は高まっている。
選挙公約に改憲4項目を潜り込ませ、同日選で勝利すれば、安倍首相が「改憲案も国民の信を得た」と言い出すのは目に見えている。安倍首相の周辺からは「憲法審なんてスッ飛ばして国会に提出すればいい」という強硬論も聞こえてくるのだ。安倍首相に近い議員たちは、議員提出による改憲を目指す超党派の勉強会を立ち上げ、準備を進めている。
国民投票を念頭に、安倍側近の下村博文文科相が本部長を務める党憲法改正推進本部は、5日の会合に政治心理学者の川上和久氏を招き、「憲法改正国民投票の最大の壁とは」をテーマにヒアリングを行った。川上氏は、改憲反対派を名指しで批判するなどのネガティブキャンペーンが効果的だと講演。「改憲派も何らかの『敵』をつくり、国民の不安や怒りを覚醒させる必要がある」と話したという。
「呆れて言葉もありません。憲法改正は不安や怒りをあおってやるものではないでしょう。改憲が必要で正しいという自信があるのなら、国民が納得するロジックを示せばいい。必要なのは、冷静な議論のはずです」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
敵をつくって攻撃するネトウヨ手法の改憲なんて、日本の汚点になるだけだ。

大工の目で憲法説く 栃木の75歳男性が解説本 - 東京新聞(2018年12月7日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018120702000285.html
https://megalodon.jp/2018-1208-0919-55/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201812/CK2018120702000285.html

栃木県の山里で大工をしながら、70歳を過ぎて日本国憲法を読み込み、解説本を出版した男性がいる。憲法と国造りは、家を建てる過程に似ていると驚き、独自の「大工目線」で条文の意義を説いた。憲法を守りたい思いが強まり「憲法を学べば素晴らしさに気づく」と訴える。 (安藤美由紀)
男性は茂木町のペンネーム明良(あきよし)佐藤さん(75)で、著書は「大工の明良、憲法を読む 土台と大黒柱が肝心!」(現代書館、税別千六百円)。前文から順に条文を掲載し、文章の意味だけでなく、歴史的な背景や国民として意識すべきことも紹介している。
特徴は、憲法を「国の設計図」と捉え、所々に「大工の目線」で、自らの切り口や主張を添えていることだ。主権者の国民は施工主であり、国家建設の「棟梁(とうりょう)」である首相ら為政者を監視する必要性を説く。
戦争の放棄と戦力の不保持を掲げた九条では、「焼け跡に新しく建った」「世界で最も先進的な構造を持った家の大黒柱」と表現する。「膨大な戦死者を出した反省から生まれた。それを安倍晋三首相は変えようと言い出した」と、九条に自衛隊を明記する改憲に異議を唱えている。
法の下の平等」をうたった一四条では、戦前の植民地支配の反省から、憲法に基づく「戦後の新しい家」に住むのは「憲法を守る人。台湾人、朝鮮人だから住めないというのは一昔前の民族主義だ」と持論を展開する。
衆参両院いずれかの四分の一以上の要求があれば、内閣は国会を召集しなければならないと定めた五三条。安倍政権が野党の求めに応じず、違憲の可能性が指摘された経緯に触れ「憲法違反とは、手抜き工事。欠陥住宅をつかまされたら大ごとだ。主権者として許せるのか」と主張する。
明良さんは東京都渋谷区生まれ。大学図書館の勤務などを経て、三十代で大工の道へ。若い頃「親の言うことに従う」などの家父長制に反発を覚え、結婚して以来、姓と名を入れ替えたペンネームを使う。
もともと政治への関心は高く、一九八五年ごろから「敗戦の日」の八月十五日を起点にした「戦後カレンダー」を作製。毎年更新している。自費出版や雑誌への連載を重ねるうち、出版の話が持ち上がった。
明良さんは「有権者約一億四百万人のうち、一億人は憲法について何も知らないに等しいのでは。若者から国会議員まで学ぶべきだ。主権者として目を覚ましてほしい」と呼び掛けた。

大工の明良、憲法を読む: 土台と大黒柱が肝心!

大工の明良、憲法を読む: 土台と大黒柱が肝心!

<金口木舌>魂の叫び - 琉球新報(2018年12月8日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-845766.html
https://megalodon.jp/2018-1208-1027-49/https://ryukyushimpo.jp:443/column/entry-845766.html

重い鐘の音から始まるその曲は、両親の愛を求める魂の叫びのように聞こえる。「お母さん、行かないで。お父さん、帰ってきて」。ビートルズのメンバーだったジョン・レノンの曲「マザー」だ

▼船の給仕人だった父親は家にいないことが多く、ジョンが生まれた時も不在だった。父親はジョンが5歳のころ、どちらと暮らすか迫ったがジョンは母親を選んだ。ただ、母親ともずっと暮らせたわけではない

▼「お母さん、僕はあなたのものだったけど、あなたは僕のものではなかった」。幼い頃の厳しい境遇を歌ったこの曲からは、ジョンの寂しさやつらさが伝わり胸を打たれる

▼ジョンは「愛が世界を平和にする」との考えで数多くの名曲を残した。「イマジン」が有名だ。国はなく、殺すことも死ぬ理由もない。ただ平和に生きること、世界は一つになると想像してみようと歌う

▼平和を求める立場から辺野古の新基地建設に反対するのが玉城デニー知事だ。米海兵隊員の父親は生まれる前に沖縄を去った。父親がいなかった境遇もジョンと共通する。選挙戦や訪米時、出自に触れ、民主主義の大切さを強く訴えた

▼12月8日はジョンの命日だ。政府が辺野古の埋め立てを強行し、知事と県民は厳しい局面に立たされている。「イマジン」でジョンが、平和を夢想するのは僕だけではないと歌ったように沖縄も決して一人ではない