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本山勝寛: 学びのすすめ このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

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2016-08-09

イチローは長期の集中状態「フロー」に入っている


イチロー選手が遂に、メジャーリーグ3000本安打を達成した。その偉業に心からお祝いしたい。先日の達成前にも「イチローの失敗から学ぶ力」について記事を書いて、カウントダウンを毎日楽しみにしていたが、想像以上に長くかかった3000本達成には非常に感銘を受けた。

イチロー選手のインタビューはすべて味わい深いが、特に印象的だったのが次の言葉だ。全文掲載をしているFull-Countから引用する。

――3000安打を達成した率直な気持ちから。
「この2週間強、ずいぶん犬みたいに年取ったんじゃないかと思うんですけど、あんなに達成した瞬間にチームメートたちが喜んでくれて、ファンの人たちが喜んでくれた。僕にとって3000という数字よりも僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んくれることが、今の僕にとって何より大事なことだということを再認識した瞬間でした」


チームメートやファンに感謝の言葉を述べるのは、アスリートにとってごく普通のことだが、普段独自の表現で会見を行うイチロー選手が何よりも先にこういったことを口にすることは意外にも思えた。しかし、その言葉が、3000本達成直後の三塁上でのチームメートとの喜びようや、その後のベンチで、ひそかにサングラスの下から涙を流した姿をみると、それが本心から出てきたものであることが感じられる。「僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なこと」。イチロー選手は、自分自身の数字という以上に、自身の闘いがより大きな何かの一部のように感じられたのではないだろうか。

この会見を聞いて、私はチクセントミハイ教授の「フロー」の概念を思い出した。米国の心理学やビジネス界で注目されるこの概念は、新著『一生伸び続ける人の学び方』でも触れたが紹介したい。

一生伸び続ける人の学び方

一生伸び続ける人の学び方

シカゴ大学やクレアモント大学院大学で心理学教授を務めたミハイ・チクセントミハイ氏は、何かに没頭し極度の集中状態に入っていることに対して、「フロー」(または「ゾーン」と呼ぶ)という概念を提唱した。2008年に行ったTEDのスピーチ(300万回以上視聴)で、あらゆる職業の人たちに8000回以上のインタビューを行った結果、文化や受けてきた教育に関わらず、人がフローに入るときの条件として、以下の7つの条件が挙げられると説明している。

1)自分が何をしたいのか分かっていて、
2)ただちにフィードバックが得られること、
3)何をする必要があるか分かっていて、
4)それが難しくても可能なこと、
5)時間の感覚が消失すること、
6)自分自身のことを忘れてしまうこと、
7)自分はもっと大きな何かの一部であると感じること


1)〜6)は、よく目標達成や集中力を高める観点からよく指摘されるポイントだ。イチロー選手がこれまでことごとく記録を塗り替えてきた力の源泉もそこにあるように思う。今回のイチロー選手の姿から感じたのは、最後のポイント、「7.自分はもっと大きな何かの一部であると感じること」だ。

チクセントミハイ教授はTEDのスピーチで、ソニーの創始者である井深大の言葉を例に挙げ、次のように語っている。「彼はソニーを始めたばかりでお金もなく、製品もなく、何もない状態でしたが、アイディアがありました。彼のアイディアというのは、エンジニアが技術革新の喜びを感じられて、社会に対する使命を意識して心ゆくまで仕事に打ち込める仕事場を作り上げるというものでした。『フロー』が職場でどう実現されるのか、これ以上よい例を思いつきません。」この「社会に対する使命を意識して」という部分が、「大きな何かの一部であると感じること」につながるのだろう。つまり、技術革新によって社会がより便利になり、人々の暮らしが向上し、発展することの意味を感じて、自分の取り組んでいることがその大きな発展や進歩の一部であることを感じられることが、「フロー」につながるわけだ。

イチロー選手の場合、「僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なこと」と思えることが、自分自身の記録という数字以上に、もっと大きな何かの一部であると感じられ、それが力の源泉となり、極度の集中を生む長期フロー状態へと導いている気がするのだ。

数日間あるいは数ヶ月間、極度の集中状態「フロー」に入ることは、比較的多くの人が達成している。しかし、挫折やスランプをこえて、20年以上もの長期間「フロー」に入る超一流の人は、自分自身の歩みが自分を超えた大きな何かの一部であることを感じ、その大きな何かに背中を押されるような感覚の境地に入るのかもしれない。

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フロー体験入門―楽しみと創造の心理学

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2016-08-06

8・6に読みたいマンガ『夕凪の街 桜の国』

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)



今日は8月6日。
広島に原爆が投下され、10万人以上の方が命を失い、後遺症も含めて多くの方々が被害を受けた日だ。先日のG7伊勢志摩サミットの際には、オバマ大統領が米国大統領として初めて広島を訪問したことが話題になったが、日本人として忘れてはいけない、語り継ぐべき日だ。

そんな広島や原爆被害のことを、静かに、真摯に考えさせられる名作のマンガがある。こうの史代氏の『夕凪の街 桜の国』だ。日本財団「これも学習マンガだ!」で100選にも選ばれ、私も選書委員として以下のコメントを寄せた。

原爆が、70年前、この国に落ちた。
町が一瞬で破壊され、多くの人が亡くなった。
この作品では、原爆被害の悲惨さを直接描くのではなく、時が何年も経って、その日を忘れたくても忘れられない人と、その家族の視点から見つめている。
人として当たり前に生きる日常の静かな風景。そこには、笑いも、楽しみも、夢も、愛する気持ちもある。その静かな日常のなかに残る傷あと。家族との死別、後遺症、重たい記憶、生き残ってしまったことへの罪悪感、被爆者と家族への差別。
原爆は怖い、悲惨だと表現するかわりに、その重たいかなしみと共に生きる一人ひとりの姿を描く。そうして、静かに、読者である私たちに訴えてかけてくれる。 
うつくしく、かなしく、静かで、力強い作品。
日本中の全国民に、そして世界中の人々に読んでほしいマンガだ。
本山 勝寛(日本財団)


「これも学習マンガだ!」を発表して以来、全国の学校や公共図書館から問い合わせが多数届き、図書館に置かれる動きも出てきた。ぜひ、日本全国の学校で子どもたちに読んでほしい。そして読書感想文にするのもよいだろう。老若男女問わず、すべての世代にお薦めしたい読み継がれるべきマンガだ。

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頭がよくなる! マンガ勉強法 (ソフトバンク文庫)

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2016-07-27

百歳から俳句を始めた日野原氏の好奇心

先日、聖路加国際国際病院名誉院長の日野原重明氏が、100歳から俳句を始めて、「104歳になって俳句のことがようやく分かってきた」と述べていたと聞いた。私は以前、日野原氏の講演や学校での授業に同行し、百歳近くで何十人ものサインに応じる姿にも驚いたが、百歳から俳句という新しいことを始めるバイタリティーはさすがとしか言いようがない。

百歳からの俳句創め (日野原重明句集)

百歳からの俳句創め (日野原重明句集)



人はよく、「学生時代にもっと勉強しておけばよかった」というが、別に学生でなくても、30歳でも40歳でも、そして100歳でも、心の持ちよう一つで学び続けることができる。一生学び続ける人こそが、成長し続けることができる人だ。自分に限界の蓋をしめてしまうのは、自分自身だ。限界の蓋を開き、常に好奇心と探究心を持ち、これは成し遂げたいと思ったことにセオリーをもって取り組む。そうすれば、年齢を問わず、必ず人は成長する。

一生伸び続ける人の学び方

一生伸び続ける人の学び方



これから日本は超高齢化社会に突入するが、日野原氏のような好奇心とチャレンジ精神旺盛な「元気な老人」がたくさん増えるのであれば、日本も捨てたものではないのかもしれない。104歳の日野原氏の姿勢から学ぶものが多い。

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生きかた上手

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2016-07-24

ポケモンGOは昆虫採取から生まれた?

田尻 智 ポケモンを創った男 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

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今週末、子どもたちと代々木公園に出かけると、たくさんの大人がスマホをかざして歩いたり座ったりと異様な光景がひろがっていた。話題のポケモンGO狂想曲だ。

ポケモンゲットにいそしむ大人たちを横目に、うちの家族は、プロ・ナチュラリストの佐々木洋氏が講師をつとめる「ナンコレ生き物探検隊」というワークショップに参加した。都心のど真ん中にある代々木公園でも、珍しいスズメガとその幼虫や、幼虫から成虫に孵化する瞬間のセミなど多くの生き物をゲットして、子どもだけでなく大人も楽しい2時間だった。佐々木氏曰く、これこそ「リアルポケモンGO」で、「なんだこれ!?」という生き物を見つけ出して、調べたり知識を得たりする行為はゲームのようにおもしろい。

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ところで、ポケモンの開発者として知られる田尻智氏も幼少期は昆虫採取に明け暮れ、「虫博士」と呼ばれていたそうだ。WIREDは、「ポケモンGO」のベースには「博物学の楽しさ」があるとして、この田尻氏の幼少期のエピソードや、ダーウィンが昆虫オタクだったこととポケモンGOについて論説している。

たしかに、街や公園に出て、モンスターたちをゲットするポケモンGOと昆虫採取には多くの共通点がある。その開発の原点には、幼少期の昆虫採取の体験があったのかもしれない。

虫眼とアニ眼 (新潮文庫)

虫眼とアニ眼 (新潮文庫)

『バカの壁』で有名な解剖学者の養老孟司氏や脳科学者の茂木健一郎氏、生物博士の福岡伸一氏も大の昆虫好きだったことで有名だ。昆虫採取は好奇心(CQ)を伸ばし、興味のあることをじっくり観察したり、より深く調べたり分類したりする力を伸ばすのに効果的な遊びであり、楽しい学びだ。養老氏曰く、その観察眼こそが研究者にも必要な「虫眼」であり、茂木氏曰く、飛んでいるチョウやバッタを捕まえる感覚こそが、偶然の機会を逃さずにチャンスを掴みとる「セレンディピティー」という。その点については拙著『一生伸び続ける人の学び方』でも詳述した。

一生伸び続ける人の学び方

一生伸び続ける人の学び方



ポケモンGO狂想曲が歩きスマホの事故を多発させる社会問題に留まるのではなく、部屋の外にかくれた何か(生き物だったり、自然の変化だったり、何気ない人々の姿)を見つけ出す好奇心を伸ばす一つのきっかけになるとよいのだが、と思う週末の代々木公園だった。

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2016-07-23

イチロー3000本安打と失敗から学ぶ力


イチロー選手のメジャーリーグ3000本安打が目前に迫っている。毎日のカウントダウンが気になり、ヒット数を重ねるたびに嬉しい気持ちになる。今回の記録達成のすごいところは、長年の間一切のけがなく現役を第一線で続けてきたことに加えて、ここ数年間の成績不振を乗り越えて、打率や出塁率など見事に復調している点だ。

イチロー選手は、自らの失敗に対して真摯に向かい、その原因を冷静に分析し、そこから克服方法を学ぶ力が非常に高いように思う。

2013年、イチロー選手が日米通算4000本安打を達成したとき、記者会見で大変示唆深いことを話している。

「ヒットを打ってきた数というよりも、こういう記録、2000とか3000とかあったんですけど、こういうときに思うのは、別にいい結果を生んできたことを誇れる自分では別にないんですよね。誇れることがあるとすると、4000のヒットを打つには、僕の数字で言うと、8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね。それと常に、自分なりに向き合ってきたことの事実はあるので、誇れるとしたらそこじゃないかと思いますね。(中略)
これからも失敗をいっぱい重ねていって、たまに上手く行ってという繰り返しだと思うんですよね。何かを、バッティングとは何か、野球とは何か、ということをほんの少しでも知ることが出来る瞬間というのは、きっと上手く行かなかった時間とどう自分が対峙するかによるものだと思うので、なかなか上手く行かないことと向き合うことはしんどいですけど、これからもそれを続けていくことだと思います。」

イチロー選手は、4000本のヒットを重ねていく過程で、8000回以上の悔しい思いをし、その失敗に対して真摯に向き合ってきている。そのことこそがイチロー選手の誇りだという。

このエピソードについては、新著『一生伸び続ける人の学び方』で、失敗しても学び続けて必ず実現させる「実現力」を紐解いた章で紹介した。

一生伸び続ける人の学び方

一生伸び続ける人の学び方



同著で紹介しているが、『Harvard Business Review』は、2011年4月号において、「THE FAILURE ISSUE」(日本語版は2011年7月号「失敗に学ぶ人 失敗で挫折する人」)という失敗をテーマにした特集号を組んだ。そこで、ハーバード経営大学院のエイミー・C・エドモンドソン教授は以下のように述べている。

「失敗はすべて悪いという根深い考え方が、組織が失敗から学ぶことを妨げている。しかし、失敗は将来の飛躍のための知の源泉である。失敗の原因や経緯をきちんと理解すれば、責任のなすり合いを避け、失敗から学ぶための効果的な戦略を立てることができる。失敗から学ぶためには、失敗を早めに発見し、徹底的に分析し、失敗を生むための実験や試行テストを設計することだ」


そして、基礎科学研究では実験が時に大成功を収めるものの、その大部分(分野によっては70%以上)は失敗に終わる例を挙げ、効果的に失敗から学習するために、体系的な実験を通じて正しい場所で、正しいタイミングに、戦略的に失敗を生み出すことの重要性について強調する。失敗がつきものであることを理解し、どのような失敗も貴重な情報を伝えてくれることを理解する必要がある。

スポーツでも、ビジネスでも、学術研究でも、そして個人の学びにおいても、失敗の原因を徹底的に研究分析することは、効果的に学習し、新しい研究や事業を進め、物事を実現させるうえで必須のプロセスだ。勉強でも勉強以外のことでも、実現力の高い人は、失敗から学ぶことを決しておろそかにしていない。

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