新銀行東京 

改正金融機能強化法 新銀行東京にも資本注入するのか

信用金庫等の地域金融機関が経営悪化する前に、国による資本注入を可能にする金融機能強化法の改正案が衆議院を通過、参議院に審議の場が移った。従前あった金融機能強化法と比べ、合併や経営統合などの組織再編を資本注入の条件から削除し、容易に利用できるようにしたのが特徴だ。
 民主党はずさんな融資体制が問題視される新銀行東京農林中金は対象外とするよう強く求め、衆議院本会議でも否決に回った。
 自民党は特定の金融機関だけを外すような法律を制定することは無理という。確かにそういう理屈も分かるが、新銀行東京は08年3月に都議会で400億円の追加出資が認められたばかりでなかったか。ここで再度資本注入が認められるとするなら、3月の追加出資は何だったのか、と思う。

当初描かれていた青図面

新銀行東京は、01年、石原都知事の「大銀行にもできない中小企業の支援」「ベンチャーへの支援」という構想から始まった。また彼は「東京都」というブランドを過信し、東京都がやる銀行なら皆が信頼して預金するし(当時はメガバンクの経営破たんが実際に危惧されていた)、お金を借りに来るだろう、と思っていた節がある。
当時は中小企業やベンチャーは銀行融資を得るのに四苦八苦していた。貸し渋り貸しはがしなども行われ、中小企業の倒産も多かった。中小企業、ベンチャー支援は確かに時代の要請だったのである。しかし、じゃあ東京都が銀行業務をやろうというのは、論理の飛躍だし、武家の商法で成功するはずがない。
ベンチャー企業は、リスクが大きいからベンチャーなのだ。リスクの大きい事業は大企業が食い荒らしている。大企業が手を出していない、未知の領域に挑戦するのがベンチャー企業なのだ。とうぜんこうしたところに投資するのは、ハイリスク、ハイリターンである。そもそも低利の銀行融資が出る幕ではない。ましてや都の役人になど手におえる代物ではない。
中小企業融資にしても、そうである。中小企業の場合、決算書類を見ただけでは企業の実態は分からない。信用金庫のように、地元に密着し、経営者の人柄や能力も見て、初めて融資が可能になる。中小企業に無担保、無保証で融資するのであれば、融資後のフォローも必要になる。しかしそれだけの人材を都に揃えられるかといえば、無理だとしか思えない。
最初から無謀な計画だったとしかいいようがない。

超強気のマスタープラン

しかし、「小さく産んで大きく育てる」というのであれば、まだ希望はあったろう。しかし東京都の立てたマスタープランは正気の沙汰とは思えないものだった。
都のマスタープランでは、開業3年目で経常利益黒字化達成するとあり、その時点での総資産1兆6000億円(地銀中位行並)、融資および保証残高9300億円、経常利益54億円、BIS自己資本比率13.1%(当時、都銀でさえ平均10%程度だった!)、経費率47.2%(地銀トップクラス)を見込んでいたのだ。このような数字は夢のまた夢である(実際夢で終わってしまった)。
開業当初は6店舗を展開(その後は9店舗を目標)、役員15人、正社員195 人、契約スタッフ149人の合計359人で発足することとなった。
さらには、ATMも整備し、ICカードも作ってということになり、システム開発費も膨大なものになった。

スコアリング・モデル

新銀行東京が採用したスコアリングという融資審査手法も問題だった。新銀行東京は、中小企業向けに無担保・無保証で融資。しかし、その審査方法たるや、融資申込者に決算書類を提出させ、財務指標をコンピューターに入力、コンピューターが信用リスクを算出し、融資の可否を決めるという、スコアリング審査だったのである。
スコアリングはもともとサラ金やクレジット等で用いられてきた審査手法だ。たとえば、家を所有していれば10点、親と同居なら6点、賃借なら3点とか、勤続5年以上なら7点、5年以上なら5点、それ以下なら3点などと、融資対象者の属性を数値化し、その合計額をもとに融資の可否、融資額を決めるのである。しかし、少額の融資なら、CPを考えてこうした審査をすることも考えられていい。しかし新銀行東京が融資するのは事業資金。その額も巨額だ。また、審査が不十分で貸し倒れリスクがある分利息を高くするということもありえなくないが、事業資金を貸し付けるのに高利で貸し付けたら、運転資金が却って圧迫されよう。
事業資金融資にこうした審査手法を用い、なおかつ低利で融資するとしたら、初回融資を少額にし、金利や審査基準を毎月見直すなど、相当慎重にリスク管理をしていく必要があるし、審査担当者にも相当のベテランを当てないとならない。
しかし、新銀行東京は発足したばかり、審査の素人がこうした審査手法で融資を決めていたのだから、破綻は必至だった。

開業当初は貸し渋りも下火

05年の開業当初は、すでに銀行も自己資本を回復し、景気もよくなり、貸し渋り自体がなくなっていた。銀行は中小企業融資に躍起となり、新銀行東京は既存金融機関が融資しないような不良顧客に融資するしかない状態になっていた。
結局どうなったか。以下はの産経新聞の報道記事の抜粋である。
《旧経営陣は「半年つぶれない会社だったらどんどん貸せ」と号令をかけたとされ、デフォルト(債務不履行)を急激に増やしていった。さらに、焦げ付きを問わず、融資実行の件数や額に応じて行員には最大200万円の報奨金が支給され、質の悪い融資が膨らんでいった。同行の元行員は「朝礼で最高幹部が『これから景気はもっと良くなる。会社(中小企業)がつぶれるはずがない』と豪語していた。とにかくイケイケ路線で、止めようとした幹部行員もいたが、変わらなかった」と証言した》(「「新銀行東京問題 融資実行で報奨金200万も」」産経新聞Web版 08年2月24日)
しかし、こうした融資実態は隠され続けた。
08年3月10日付の産経新聞は「旧経営陣『監査は不要』」とスクープ記事を載せている。以下引用したい。
(略)関係者によると、開業初年度(平成17年4月〜18年3月)に融資が焦げ付くなどしたデフォルト(債務不履行)の実績率が、想定した貸し倒れ引当率2.9%(中小企業向けは4.2%)の約4倍にのぼっていた。
このため、監査法人側が18年(06年)5月ごろ、旧経営陣に一般貸し倒れ引当金は想定でなく実績率を使った算出に改めるよう指摘。「想定実績を使った中間決算は責任を持ってできない」と迫ると、旧経営陣は「それなら中間監査は不要」と突っぱねたという。
その後、銀行側は18年9月期の中間決算でも従来の想定率を使って50億円の引当金を計上。監査法人が同期の中間監査を実施しない異常事態に陥っていた。
(略)同行の旧経営陣は、原則5000万円とした上限いっぱいの過剰融資を奨励。焦げ付きを不問にしていたほか、「半年つぶれない会社だったらどんどん貸せ」との方針を示していた。
このため、融資先への訪問調査や資金確認を行わないずさんな融資が常態化。破綻企業のうち、融資申し込み時点で決算書の粉飾が疑われるものが相当数あったという。(以下略)

中小企業経営者も新銀行東京にはNO!

結局400億円の追加出資は行うべきだったのだろうか。中小企業がそれを渇望していたというのであれば、都の言い分も通るが実際は違うのである。
都の400億円の追加出資が議論になっていた当時、東京中小企業家同友会が緊急アンケートを行ったところ、次のような結果が出た。
Q4 石原知事は「中小企業のため」としていますが、新銀行東京は中小企業に役立っているかどうかについてご意見をお聞かせください。
  役立っている   10.7%
  役立っていない  60.4%
  わからない    12.0%
  未回答      16.9%
Q5 今後どうしたらいいとお考えですか?a〜c を選び、その他ご意見があればご記入ください
  存続させ、業務を改善させる。400億円は必要  16.9%
  存続させるが、400億円の投資は多すぎる     9.8%
  金融庁とも相談し早急に整理をしたほうがいい   60.0%
同アンケートには中小企業経営者から次のような厳しい意見が寄せられている。
􀂌 銀行としての融資審査能力が低いのでは。
􀂌 特定関係企業に融資をしていたのではないか。
􀂌 あの時期は必要だったかも知れないが、その後銀行の方針が一斉に変わった。その時に新銀行の役目は終わったと思う。
􀂌 形式審査しかできない。他の金融機関と同じなので存続させる意味がない。
􀂌 この銀行しかお金を借りられないとしたら、その会社は既に破綻状態であると見られる。
􀂌 中小企業のためであれば、基準をさげて利用しやすくすべきである。
􀂌 信用組合・信用金庫・その他金融機関における融資など充実するほうがいいと思う。 もちろん制度融資も大事
􀂌 中小企業のためと言っているが、その実、銀行存続(それも見通しのない)のための出費であり、無駄金はこれ以上使うべきではない。
􀂌 改善の道筋が明確でない以上存続しても財務改善は望めないどころか、更に悪化すると思われる。整理した場合の影響を把握し、その対応が出来次第、出来る限り早急に整理すべき。
􀂌 税金を使って延命させるべきでない。新銀行東京がそんなに直ぐよくなるものではない。新銀行の融資制度が今までと同じスコアリングを使ってものであれば、同じ愚を繰返す。
􀂌 新たな融資は中止、大手企業への融資は他の金融機関へ借換を促し、中小企業への融資は特別に制度融資を設けて対処。資金は中小企業への助成制度へ利用した方がよい。
􀂌 金利は高すぎますし、きちんとした基準があるようには感じませんでした。
􀂌 焼け石に水の400億円を投入するよりも早期に整理をし、今後発生する損切りをしたほうが損失を減らせる。その上でこの失敗の責任追及をすべき。
本当、同感である!!
http://www.tokyo.doyu.jp/pdf/0326-2.pdf

新銀行東京の実際

新銀行は07年9月の中間期決算で87億円の赤字を出し、累積損失も936億円まで拡大した。そのため、都は経営再建を名目に今年4月末に新銀行東京に対して400億円を追加出資した。これによって、新銀行は懸案だった資本増強を終え、9月には1016億円の累積損失を穴埋めするため減資も行った。
しかし、金融庁が5月16日から7月25日までの間行った立ち入り検査の結果が、10月21日、東京都に通知された。新銀行東京には100億円規模に上るとみられる不良債権の引き当て不足が指摘されたという。4月の追加出資が、その年の10月には毀損している疑いが出てきたのである。

預金者、融資先はどうなる

新銀行東京では08年1月末現在、1000万円を超える部分の預金は、法人、個人合わせて9610件・477億円に上り、個人顧客だけでも9523人・315億円に上る。もし新銀行東京が破綻となり、わが国で最初のペイオフの実施に伴う影響は図りしれないものとなるのは事実である(都議会における佐藤産業労働局長の回答より)。
しかしさらに営業を続ければ、さらに損失は膨らむ。一刻も早く廃業し、預金者には都の責任で賠償すべきである。
融資先は、都が一定限度額保証することにより、別の金融機関に引き継がせるべきである(他の銀行は都が出した数字を信用しないので、相当厳しいデューデリが行われるであろう)。

国の債務843兆円 破たんした場合の悪魔のシナリオ ネバダレポートとは

財務省発表 国の債務843兆円に減

財務省は11月10日、国債と借入金、政府短期証券を合わせた国の債務残高が08年9月末時点で843兆2794億円になったと発表した。過去最高だった08年3月末時点に比べて5兆9602億円減少した。 
でも、これ喜ぶ数字なの?

国のGNP、単年度予算

07年の日本の名目GDPは約516兆円、08年度の国家予算は約83兆円(特別会計を含めず)。この843兆円という金額は、GDPの1.6倍、国家予算の約10倍というとてつもない金額だ。
国の債務残高の対GDP比は、07年で約177%、米国の62%、英国の49%、ドイツの70%などと比べ突出している。欧州では、統一通貨ユーロに参加する条件として各国に単年度の財政赤字をGDPの3%以下に抑えることが義務付けられている。ドイツは4年連続この条件を守れず、07年に付加価値税を16%から19%に引き上げ、黒字に転換した。しかし、日本の財政赤字の対GDP比は07年度で3.6%。日本が欧州の中にあったら、ユーロに参加できなかった。

ネバダレポート 日本が破綻した場合の最悪のシナリオ

ネバダレポートというものがある。日本が破綻し、IMFが日本を管理下に置く場合、日本をどうするかということをレポートしたものであり、IMFに近い筋の専門家がまとめたとされているものである。
02年2月14日の衆議院予算委員会民主党五十嵐文彦議員の質問の中でも、このレポートの存在が触れられている
○五十嵐委員 
 私のところに一つレポートがございます。ネバダ・レポートというものです。これは、アメリカのIMFに近い筋の専門家がまとめているものなんですけれども、この中にどういうことが書いてあるか。ネバダ・レポートの中でも、昨年の9月7日に配信されたものなんですけれども、IMF審査の受け入れの前に、小泉総理の、日本の税収は50兆円ほどしかない、今の85兆円を超える予算は異常なんですという発言があります。これを大変重視して、当然だと言っているんです。
 同時に、9月上旬、ワシントンで、私、柳澤大臣と行き会いましたけれども、そのときに、柳澤大臣が記者会見をワシントンでされていまして、IMFプログラムを受け入れるという発言をされていますね。これは御確認をさせていただきたいんですが、そのとおりですか。
○柳澤国務大臣 
IMFのFSAP、これは受け入れます。これはもともとがG7の国で発案をしたものでして、それをいつやるかということを我々も考えておりましたが、我々の方はペイオフという大事業があるので、生まれたばかりの役所でマンパワーがとかく不足であるというようなこともありまして、少しそのタイミングを見計らったということが背景で、今回、そういうことを正式に表明したということでございます。
○五十嵐委員 
極めて狭い意味、いわゆる金融のIMFによる検査という意味で柳澤大臣は使われているんですが、IMFの方では、金融面のプログラム、それは検査だけではないと思いますが、いわゆるIMFのプログラムの中には、金融面とそうでない部分があるんですね。主に我々も金融面をとらえているし、その検査も含めて、柳澤大臣も金融面のことを頭に置かれているというふうに思うんですが、このネバダ・レポートの中ではこの二つの発言を評価しておりまして、これが当たり前なんだということを言っております。つまり、バランスバジェット、収支均衡というのが極めてIMFでは重視されるんだということを言っておりまして、もしIMF管理下に日本が入ったとすれば、8項目のプログラムが実行されるだろうということを述べているのであります。
手元にありますが、その8項目というのは大変ショッキングであります。
 公務員の総数、給料は30%以上カット、及びボーナスは例外なくすべてカット。
 公務員の退職金は一切認めない、100%カット。
 年金は一律30%カット。
 国債の利払いは5年から10年間停止。
 消費税を20%に引き上げる。
 課税最低限を引き下げ、年収100万円以上から徴税を行う。
 資産税を導入し、不動産に対しては公示価格の5%を課税。
 債券、社債については5〜15%の課税。
 預金については一律ペイオフを実施、第二段階として預金を30%から40%カットする。
大変厳しい見方がなされている。
これはどういうことか。そのぐらい収支均衡というのは大事なんだ、経済を立て直すためには極めて大事なんだということを、世界の常識となっているということを示しているわけであります。
こういう認識をお持ちになっているかどうか、財務大臣竹中大臣、伺いたいと思います。
○塩川国務大臣 
数字の面でいろいろ議論ございますけれども、私は、今おっしゃったような厳しい認識は持っております。
○竹中国務大臣 
短期的に常に均衡させることが重要かどうかということについては、当然のことながら議論が御承知のとおりありますけれども、長期的にやはり持続可能であるためには、それはまさにプライマリーバランスを均衡させなければいけないと強く思っております。

IMFの正体

10月31日の私のブログでも述べているが、IMF世界銀行も、第2次世界大戦終戦前に対独戦勝利を見込んで連合国が戦後の復興体制を取り決めたブレトン・ウッズ協定でその設立が決められた。米国が欧州の戦後復興に経済的協力をする代わりに、米国が支配するIMF世界銀行が戦後の復興を支配し、その後の国際金融協調体制を主導し、基軸通貨の地位も英ポンドから米ドルに移ることを要求し、それが通ったのである。これが今日のアメリカの覇権をもたらしている。
そしてIMFというのは、アメリカの他国支配の道具なのである。
もしネバダ・レポートが実際に行われたら、日本経済の成長は止まり、国民も塗炭の苦しみを味わされることになる。
97年の韓国も、アジア通貨危機で、外貨準備高が底をつき、韓国ウォンは大暴落。財閥系企業の倒産が多発し、不良債権が急増し銀行も倒産続出しかねない状況となった。結局、韓国はIMFから借金をせざるを得なかった。このため、IMFの管理下で、公務員削減、企業の透明性確保による外資による韓国企業の買収、労働市場の自由化が進められた。

日本は米国のポチを続けるべきか

11月14日ニューヨークで金融サミットが開かれる。これも10月31日のブログで書いたように、ここではIMF改革が議論される。伊藤隆敏東大大学院教授も、東京新聞記者の「日本も外貨準備高を活用し、IMFと協調して資金供与にに動くようだが」という質問をいなして、次のように答えている(11月11日東京新聞朝刊)。
資金調達の方法は重要ではない。(資金を出す国は)金融秩序の再構築に向け、IMFの理念や哲学をはっきりすべきだ。英米などの欧州各国は、その覚悟で乗り込んでくる
日本は米国のポチを続けるのか。日本がIMF支配下に置かれることが将来ないともいえないのであるから、あまりに米国中心のIMF体制に距離を置くべきだろう。
それにしても情けないのが、日本政府が今回の金融サミットの直前に日本国内でプレ会議を開くように出席国に呼び掛けたというのである。そして、世界恐慌に進まないよう、バブル崩壊の日本の教訓を世界に発信しようとしたことだ(結局どの国からも相手にされなかった)。そんなこと日本に言われなくても分かっているし、今回の金融サミットの本当のテーマではない。日本のこのKYさには、恥ずかしくて、穴があったら入りたい。

ウォーレン・バフェットが分かればオバマが分かる

ウォーレン・バフェットオバマの経済顧問の一人に

オバマが11月7日、「政権移行経済顧問委員会」の17人を選出した。同委員会にはロバート・ルービン(元財務長官、現シティグループ経営執行委員長)、ローレンス・サマーズ(元財務長官)というビッグネームのほかに、ウォーレン・バフェットの名前がある。
この17人の中で、オバマが一番フランクに相談できる相手がバフェットかもしれない。

ウォーレン・バフェット 年10万ドルで生活する世界一の大富豪

バフェットは、08年、フォーブスの世界長者番付で、ビル・ゲイツを追い抜き世界一の資産家となった(前年は第2位)。しかし、バフェットの生活はおそろしく質素だ。
バフェットは58年に3万ドルで買ったオマハの郊外の住宅に今も住み、彼が経営する会社から受け取る年10万ドル(1000万円)だけで生活している。
06年6月、バフェットは、当時の資産の8割にあたる374億ドルを慈善財団に寄付すると発表した。彼はそういう人物なのだ。

オマハの賢人

アメリカ人はバフェットを尊敬して「オマハの賢人」(Oracle of Omaha)と呼ぶ。ちなみにoracleには、賢人のほか、神託、信託を伝える人、 預言の意味があり、彼の言葉はアメリカ人にとっては神託のような重みがあることになる。
彼を日本人で例えるのは難しいが、アメリカ人にとって、松下幸之助本田宗一郎土光敏夫といった存在なのではなかろうか。

バフェットは投機家ではなく、投資家である

バフェットに「あなたの職業は」と聞けば、「投資家だ」と答えるだろう。しかし、彼は自分の富のためにではなく、絶えず社会への貢献を考えて行動する人物である。それは彼の質素な生活にも表れているし、彼の投資家としての行動理念にも表れている。
彼は投資家であって、投機家ではない。投資と投機は別物である。すぐに上がりそうな株を買って、上がれば売り抜けて短期で利益を上げるのが投機。企業の潜在的価値を見抜き、その企業が成長し企業価値を上げることを予想、長期に保有する目的で株を購入するのが、投資である。
バフェットは、世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイ最高経営責任者、かつ支配株主でもある。バフェットは、事業の内容を理解でき、長期的に業績が良いことが予想され、経営者に能力があり、魅力的な価格であるという4条件を満たす企業にしか投資しない。彼の行った投資で有名なのが、アメリカン・エキスプレスに対する投資である。64年、同社が破綻確実な子会社に融資しようとして、株価が暴落したときに、バフェットは今後クレジット社会になると予見し、同社の潜在的成長価値を確信、大量に株を買った。同社はスキャンダルからも回復、その後高成長し、バフェットと彼の会社に多大な利益をもたらした。

バフェットは証券会社が嫌い

バフェットは証券会社を嫌っている。証券会社は、表面上何かと顧客の利益を言うが、実際は手数料を稼ぐことしか考えていないからである。バフェットは株を高く売り抜けようなどと考えてはおらず、株価の上がり下がりに一喜一憂することがない。証券会社の人間とは基本的に発想が違うのである。バフェットの以下の言葉を見れば、彼の投資哲学が分かると思う。
・株を底値で買う必要はありません。その企業の株価が、あなたの考えるその企業の価値より安いこと、正直で有能な人々によって経営されていることが重要です。
・10年間市場が閉ざされても、持っていて幸せだと思えるような株を買いなさい。
・株式市場というのは、誰かがばかげた値段をつけていないかどうかを確認する場所にすぎません。私達は株式投資を通じて、企業に投資しているのです。

バフェットの経済見通し、デリバティブ取引について

証券アナリストは、得てして楽天的な見解を述べがちだ。しかし、彼らは株式投資が活発にならないと(今日買って明日売って儲けようという人がいないと)やっていけない人たちである。だからそういう色眼鏡を通して、彼らの発言を見なければならない。08年5月26日、バフェットは、ドイツのシュピーゲル誌とのインタビューで、米国はすでに景気後退入りしており、その期間も深刻度も、多くの専門家の予想を上回るとの見通しを示した。
しかし、そのインタビューで、バフェットは「世界が崩壊しても企業投資は続ける」と、力強く述べている。こうした物言いができるところが、彼が賢人といわれる所以であろう。
バフェットは、これまでもデリバティブ取引に対する批判を繰り返してきたが、同インタビューでも「現実の産業が健全であるにもかかわらず、金融上の賭けによって何十万人もの人員が削減されるなど、実際の業界が悪影響を受けるのは正しくない」と述べている。そのうえで、効果的な規制ができないことに不満を表し「もはや制御不能な状況となっている。それが問題だ」と述べた。
バフェットがオバマの経済顧問になったのも、オバマが彼を経済顧問にしたのも、彼のこうした信念があってのことである。

バフェットのモノラインに対する宣戦布告

モノラインと呼ばれる金融専門の保証会社がある。彼らは元々は州政府、市政府が発行する地方債の保証業務をしていた。しかし、金融バブルの中、サブプライム証券化に深く関わるようになった。AAAの格付を受けている彼らは、自らの格付けを武器に、サブプライムローンの支払を保証することで、本当は信用力の劣るサブプライム関連商品がAAAの格付を得る手助けをしていた。しかしサブプライム危機により、MBIA、アムバックといったモノライン大手は軒並み経営危機に陥っている。
バフェットはこれをどう見ているか。バフェットからすれば、モノラインの経営危機など自業自得としか映っていない。しかしバフェットが問題視したのは、今までモノラインに保証を委託していた州政府等の苦境である。州政府は地方債をモノライン会社に保証してもらっていたが、このモノラインの格付けが落ちることで、地方債の発行コストが上がってしまっているのである。ウォール街の金儲けのため、それに関係ない住民が大きな被害に巻き込まれようとしている。彼の目にはそう映ったに違いない。
07年12月、バフェットが率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは、モノライン業務を開始。しかしハザウェイはサブプライムは扱わず、地方債の保証業務だけを扱うとした。
08年2月、ハザウェイは、モノライン各社に対して、最大8000億ドル(約86兆円)まで地方債を再保証するという提案をしたのだ。この件は、バフェットがモノラインに対して救済案を提示した、として報道されたが、僕はこれは救済ではないと思う。モノラインが、地方債の保証業務をハザウェイに譲ってしまっては、手元に残るのはサブプライムというクズ資産だけとなる。モノラインとして受けられる話ではなく、実際これに応じるモノラインはなかった。バフェットはモノラインなんかを救済しようとしたのではない。地方債を発行する地方政府を救済しようとしたのだ。バフェットは、モノラインがこの「救済」案を拒否することも見通していたのではないか。彼はモノラインが、地方債を人質にして延命しようとしているということを、白日の下に明らかにし、それをメッセージとして米国民、米政府に伝えたかったのではないか。

今後のオバマの政策

リーマンショックの最中、銀行への資本注入の必要が叫ばれる中で、米国ではこの問題が「ウォール・ストリートかメイン・ストリート」かという言い方で議論された。税金をウォール街銭ゲバ連中に使うのではなく、国民生活のために使ってくれという、国民の声がこういう表現になった。
バフェットは、信念の持ち主であるが、冷徹な投資家でもある。銀行への資本注入が必要ということであれば、それを支持するかもしれない(なお、オバマシティグループ経営執行委員会会長のロバート・ルービンも経営顧問に加えている)。
しかし、資本注入と引き換えに、銀行の現経営者の刷新を求めるのではないか。
あるいは、GM等、実体経済の前面に立つ企業の救済を優先するかもしれない。もっとも、その場合、現在の無能な経営陣の退陣は不可避となるのではないか。

オバマの他の経済顧問

オバマはバフェットのほか、次の16人を経済顧問に選んだ。この中から財務長官が選ばれるとすると、ロジャー・ファーガソンではないかと予想する。彼はグリーンスパン時代にFRB副議長だった人で、バーナンキが主張したインフレターゲット論に反対。ブッシュ政権下、バーナンキグリーンスパンの後を継ぎFBR議長となると、辞任した。
・デービッド・ボアニー 元民主党下院議員・副院内総務
・ロエル・カンボス 元米国証券取引委員会委員
・ウィリアム・デイリー 元商務長官
・ウィリアム・ドナルドソン 元米国証券取引委員会委員長
・ロジャー・ファーガソン 元米連邦準備制度理事会FRB)副議長
・ジェニファー・グランホルム ミシガン州知事
・アン・マルケイヒー ゼロックス最高経営責任者(CEO)
・リチャード・パーソンズ タイムワーナー取締役会議長
・ペニー・プリッツカー クラシック・レジデンス・バイ・ハイアットCEO
ロバート・ライシュ 元労働長官、カリフォルニア大バークレー校教授
ロバート・ルービン 元財務長官、シティグループ経営執行委員長
エリック・シュミット グーグルCEO 
・ローレンス・サマーズ 元財務長官。ハーバード大教授
・ローラ・タイソン 元国家経済会議(NEC)議長
・アントニオ・ビヤライゴザ ロサンゼルス市長
・ポール・ボルガー 元FRB議長