■第一事件 1962年(昭和37年)9月15日(土)、熊本県熊本市の谷三十郎方は不穏な空気に包まれていた。三年前に夫妻が仲人を務めた森川哲行(当時32歳)と妙子の離婚に向けた話し合いが行われていたのである。そして、その帰り道で“最初の”惨劇は起こった。 加害者となる森川哲行は、1930年(昭和5年)に熊本県飽託郡天明町の海路口(うじぐち)村で漁業を営む安雄の三男として生を受けた。気性の荒い漁師の町として知られ、父親は森川が2歳のときに喧嘩が元で命を落とした。母親は幼子たちを残して別の男と再婚し、父方の祖父母に引き取られた。10歳の頃にその祖母が他界し、子宝のなかった叔母の家に引き取られた。 幸…