山の動物のことを前述したが、獣肉や熊の胆など、直接的な恵みのことだけをもって “幸” と言ってはつまらない。狐狸妖怪などの民話を生み、人の思惑がやすやすとは及ばない自然の神秘性を知り、敬う心を育む存在。山野がもたらす恵みには文化的な要素がたくさんあったと思うのだ。食卓に上った山鳥 (やまどり) の肉は美味しかったが、それよりも山鳥の姿の美しさと凛とした気品が私の脳裏に印象強く残っている。 川の生きものとの交わりは1,000字では語り切れない。今回だけ決まりを破って、2,000字で綴ってみようと思う。 集落に近い山すそにはいくつも湧水口があった。そこから流れる幾筋かの川にはさまざまな生き物がいて…