「莫高窟と日本人」に書いた通り、10年以上前のカナダ留学時に、カナダ人相手に「敦煌」(井上靖著、新潮文庫)の出だしを私は次のように語っていました。 中国の宋の時代、科挙(役人採用試験)の最後に、皇帝自らが試験官となる殿試があり、物語はそこから始まります。 主人公はその殿試まで進んだ天才です。皇帝相手に一歩もひるまず、丁々発止の問答を繰り返していましたが、突如、後頭部を叩かれます。なにごとかと後ろを振り返ると、案内係の役人が呆れ顔で主人公を見ています。ふと我に返ると、主人公は皇帝のいる部屋ではなく、殿試受験生たちが集合していた部屋にいます。さらに、先ほどまで昼間だったのに、いつの間にか夕方になっ…