狭山丘陵の町の片隅に佇む喫茶店 オンブル。当時、自転車で図書館めぐりを趣味にしていた私は、夏の午後に同店を訪れて以来、週末ごとに通い詰めるようになった。マスター ヤストさんとママ アキさんの二人で店を切り盛りしていて、平日、ヤストさんは本業の仕事があるので、週末のみ店に顔を出していた。私はオンブルで、図書館で借りた本をさっそく読むことを習慣にしていたので、読書、ひいては文学好きのヤストさんとは自然に仲良くなった。 「今日はそんなに借りてきたんですか。凄いですね」ヤストさんはテーブルに積み上げた本を眺めて言った。 「毎日、会社から帰ると、本ばかり読んでいるんです。単行本だったら、週に二、三冊は読…