ふいに漂ってきた匂いに、足を止めることがある・・ 台所からの煮物の湯気 古い本の紙の匂い 夏の夕暮れの線香花火 誰かが通り過ぎたあとに残る、ほのかな石けんの香り すると不思議なことに、忘れかけていたはずの景色が静かに胸の中へ戻ってくる あの日の笑い声 並んで歩いた帰り道 小さな手のぬくもり なぜ人は、匂いを嗅ぐと 記憶がよみがえるのだろう 匂いは目には見えない けれど確かにそこにあって 風に乗り、肌をかすめ 脳の奥にそっと触れていく 見えないものを、体験として受け取り 心の引き出しにしまっているのかもしれない だから一つの香りが、鍵のように記憶を開ける いろんな匂いがあるけれど 私は雨上がりの…