ある日、運転中に流れてきた音楽が、夫が急変したとの報せを受けて病院に向かっていた時に聴こえていた曲だった。 心臓がギュッと締めつけられて、痛くなった。忘れていたはずのあの日の記憶が甦ってきて、酷だな、と思った。 長い時間をかけて乗り越えてきたのに、一瞬で引き戻された気がした。 夫とふたりで過ごした最後の時間は、わずか4時間ほど。病院のスタッフに「どなたか来られますか?」と聞かれたけど、誰も呼ばなかった。気を遣わずに済んで、それが楽だった。 「意識のない人も、脳は鮮明に働いている」と、どこかで読んだことがある。けれど、私は夫に何一つ、声をかけなかった。 夫の目から涙が流れていた。それがなぜなのか…