母は、いつもやさしい人だった。私を叱った記憶は、ほとんどない。 けれど、よくこう言っていた。「あなたみたいに我儘な子は、親勤めしないとだめだから」 ──図らずも、母の願い通りになった。 結婚式の日、花嫁姿の私に向かって、まるでドラマのようにこう言った。「○○さんに、ちゃんとついていくんだよ」涙声だった母の言葉は、いまも忘れられない。 夫は、物腰のやわらかい人だった。育ちの良さが、滲み出ていた。だから私たち夫婦は、ずっと「かかあ天下」に見られていた。母も例外ではなく、私の振る舞いをときどき窘めた。 だけど、私は実家に泣き言を言わなかった。逃げ帰ったことも、一度もなかった。 実家に泊まりに行くとき…