雲はいくぶん厚いが、気温湿度ともに高い。ジリジリと肌を刺す直射日光はないが、すこぶる蒸暑い。 施餓鬼会でお下げいただいた塔婆のお礼に、金剛院さまへ伺う。混雑を避けて、一日遅らせたのだ。境内には人影がない。昨日と今日とでは、雲泥の差だ。参詣者どころか、樹木や花ばなの手入れをなさる職人がたも、今日は休みと見える。施餓鬼会とは、仏たちへの通信だと教わった。先に還ってしまった人たちへの、ご機嫌伺いだ。ラッシュアワーを避けての一日遅れだが、ゆっくり面会できて、かえってよろしいようなものだ。 庫裏へ伺うと、ご住職の奥さま(若大黒さん)が出て見えた。いかにも働き者といった感じの明朗な奥さまだ。 「お宅さまで…