幸田文の「台所のおと」はめちゃくちゃ好きな短編だ。昔、10年も片想いした人がやっと恋人になった時、憧れだった「読み聞かせ」をわたしの誕生日祝いにしてほしいと頼んで、ひざまくらで読んでもらったのが大好きなこの話だった。その人とは結局うまくいかなくなったけど、まだ恋に浮かれることのできたその頃のわたしの、愚かながら甘酸っぱい記憶である。今読んでもやっぱり好きな話だし。 「木」は短編集というか随筆集か、さほど厚くなく気楽に読めそうな本だけど、それの最初の一篇「えぞ松の更新」を映画館のロビーで映画待ちの間に読んだらちょっと震えるくらいよかった。 幸田文が70代くらいで、日本中のあちこちへ、木を見に行っ…