1953年の芸術院賞を受賞した川端康成の同名小説を水木洋子が脚色。 成瀬巳喜男にとって『山の音』(1954)は『乙女ごゝろ三人姉妹』(1935)、『舞姫』(1951)に続く川端康成原作作品だ。人間関係の複雑さと、そこに潜むエロチシズムの静かな気配によって、深い思索を促す成瀬巳喜男の代表作のひとつである。 原節子は『めし』(1951)以来二度目の成瀬監督作品出演で、『めし』で共演した上原謙が本作でも夫役を演じている、だが、この夫は『めし』の穏やかでのんきな夫像とは真逆の氷のように冷たい性格の持ち主として描かれている。 原と心を通じ合わせる舅を山村聰が演じ、その妻役に長岡輝子、修一の妹役に中北千枝…