顔に袖を押しあててそむき給へる姿の、限りなくをかしげなるに、御髪は頂より末までいささか後れたる筋なく、つやつやとひまなく凝りあひて、長さはこちたくもあらず、丈に五六尺ばかり余り給へる末の、五重扇を広げたらむやうに、きよらに多く凝り合ひて、類なくめでたし。 ――「夜の寝覚 巻一」 中の君が妊娠させられてしまって歎く場面で、このように顔を隠した姫の髪の美しさが五重扇と重ねられて讃美されるわけであるが、――このような歎きが心として感じられることと表面的な美がこれでもかと描かれることとは果たして関係があるのであろうか。 こんなことを思ったのは、ゼミで宇佐見りんの『推し、燃ゆ』を扱っていて、金原ひとみも…