納豆のかわりに黒豆。目玉焼のかわりに伊達巻。イワシ缶かツナマヨのかわりに焼鯖かまぼこ。食卓は先行正月だ。 正月といっても、大晦日の翌日。大晦日といっても三十日の翌日に過ぎない。屠蘇や雑煮で祝う必要もなき一人家族なれば、手配した食材が届けばどんどん開封する。 二十八日の宵には、野尻組の若い衆が松を届けてくれる。門扉左右の松一対、玄関用玉飾り、神棚用の注連縄、そして気や水の出入り口に漏れなく祀る裏白の輪を十本ばかりだ。 例年の、そして日ごろ顔馴染の若い衆とは別な人が届けてくださった。少し世間噺してから、とどこおりなく品物を受取り、代金と祝儀も済ませた。頭によろしくお伝えをと、一本持ち帰っていただく…