🪷【源氏物語162 第九帖 葵35】六条御息所から手紙が来る 夜は帳台の中へ一人で寝た。 侍女たちが夜の宿直におおぜいでそれを巡ってすわっていても、 夫人のそばにいないことは限りもない寂しいことであった。 「時しもあれ 秋やは人の別るべき 有るを見るだに 恋しきものを」 こんな思いで源氏は寝ざめがちであった。 声のよい僧を選んで念仏をさせておく、 こんな夜の明け方などの心持ちは堪えられないものであった。 秋が深くなったこのごろの風の音《ね》が身にしむのを感じる、 そうしたある夜明けに、 白菊が淡色《うすいろ》を染めだした花の枝に、 青がかった灰色の紙に書いた手紙を付けて、 置いて行った使いがあ…