言の葉に宿るもののけ──柳田國男『遠野物語』に見る民間伝承の心魂 柳田國男による『遠野物語』(1910年)は、日本民俗学の出発点とされている稀有な書物です。この作品は、岩手県遠野の人びとのあいだに伝えられてきた不思議な語り、すなわち“もののけ”や“異界”にまつわる言い伝えを丹念に記録し、一冊の書物へと編み上げたものです。本稿では、この『遠野物語』における語りの特徴や民俗的な想像力のありようを明らかにしながら、柳田國男が見いだした“語りの力”の根源について考察いたします。 『遠野物語』は、口承による語りを筆録するという形式をとっております。柳田自身がすべてを聞き書きしたわけではなく、佐々木喜善と…