ドイツ連邦共和国基本法の改正経過🄖:第52次〜第60次 ('05-'15)

2005年11月から現在まで,キリスト教民主・社会同盟のアンゲラ・メルケルが連邦首相を務める。ただし,連立パートナーに変遷があり,2009年10月までの第1期は,社会民主党との大連立政権,2013年12月までの第2期は,自由民主党との保守中道政権,現在までの第3期は,再び社会民主党との大連立政権を率いている*1

現職の政権であり,これを総括するには早いといえようが,基本法改正に関しては,当然ながら,大連立政権であり,連邦議会の特別多数を握っていた第1期に多い。その中でも,第52次改正(第1次連邦改革)及び第57次改正(第2次連邦改革)は,欧州統合を踏まえて,連邦と州との関係を整理する基本法施行以来の大改正といわれる*2

52. 第1次連邦制改革:連邦と州の立法権

第52次改正 2006.08.28

ドイツの連邦制度は,州を原則的な国家主体としながら,概ね連邦の権限を強化する方向で改正が積み重なってきたが,連邦と州の双方に不満があり,欧州連合との関係も整理する必要が生じていた。本改正は,連邦と州の立法権限を再編し,「欧州適合能力」を高めるものであり,基本法施行以来の大改正であるとされる。

解説

ドイツの連邦制度は,州を原則的な国家主体(基本法30条)としながら,概ね連邦の権限を強化する方向に進んできた。第42改正による憲法秩序の再編では,州権の強化も図られたが,必ずしも十分なものとはいえず*3,また,欧州統合の強化によって,州の権限が欧州連合に吸い取られる部分もあったことから*4,州側には年来の不満があった*5

他方,連邦は,その立法権限拡大の代償として,州の代表機関たる連邦参議院の同意を要する法律の範囲が広くなりすぎたことに弊害を感じていた*6。また,第42次改正は,連邦の大綱的・競合的立法権限の行使要件を改正したが,連邦憲法裁判所が,この新要件を厳格に解するようになっため,連邦の立法活動が阻害される懸念も生じていた*7

そこで,本改正は,大連立政権の成立を背景に*8,まず,州権の強化の方向として,「閉店法」など,いくつかの領域を連邦の立法事項から外すとともに*9,連邦の大綱的立法権限を廃し,その一部につき,連邦法が州法を破るのではなく,双方が対等の立場で前法後法となる新たなタイプの競合的立法事項に位置付け*10,その外,若干の制度調整をした*11

他方,連邦権限の強化としては,治安に関連する事項を中心に,連邦の専属的立法事項が増補され*12,従前からの競合的立法事項の多くについて,第42次改正で厳格化された連邦の立法権限行使の要件が不適用となることになった*13。また,連邦参議院の同意を要する法律を削減するため,基本法84条1項が改正された*14

ところで,この連邦権限の強化は,欧州統合との関係でも重要であった。すなわち,欧州指令の国内法化に当たり,連邦が統一的に規律できる事項が限られ,また,連邦参議院の同意に時間を要するという問題があった*15。この問題は,特に環境法分野で顕在化していたが*16,本改正は,環境法の一般原則等について,連邦が優位する領域を確保した*17

本改正は,その外,州側の原因で欧州司令の国内法化が遅れ,欧州司法裁判所に罰金を課された場合などにおける負担配分(本改正後の基本法104a条6号)*18欧州理事会における州の代表権(同23条6項)*19などの問題にも一定の解決を与え,基本法施行以来の大改正として*20,「欧州適合能力」*21を高めたものとしても性格付けられる。

53. リスボン条約批准に伴う議会権限の強化

第53次改正 2008.10.08

2007年12月13日に署名されたリスボン条約は,各国の国内議会が,議会の名で,欧州連合裁判所に対し,欧州連合の立法が「補完性の原則」に反するとして提訴する権限を付与した。本改正は,同条約批准のため,連邦議会(議員の4分の1の申立て)及び連邦参議院が,これらの権限を行使する根拠規定を追加したものである。*22

解説

リスボン条約は,2007年12月13日に署名されたが,同条約及び附属議定書は,欧州統合を深化させた一方,欧州連合の権限の肥大化を防ぐ「補完性原則」を担保するため,各国の国内議会に対し,欧州連合裁判所において,議会の名で,欧州連合の立法行為が同原則に反することを争う権限を付与することとした*23

本改正は,同条約を受け,連邦議会及び連邦参議院が,欧州連合裁判所に対する提訴権限を有すること,連邦議会は,議員の4分の1の申立てがあるとき,この提訴権限を行使すべきものとし,立法府に対し,行政府の外交権とは独立に対外的権限を行使し,また,多数決原則の例外を追加したものである(本改正後の基本法23条1a項)*24

また,同条項の追加に付随して,連邦議会が,同議会の委員会である欧州連合委員会に対し,同議会の権限を委任するための根拠規定にも改正が加えられた。改正前の基本法45条は,「連邦政府に対して有する諸権限」という文句を用いていたため,そのままでは,前記の提訴権限を委任事項に含めることができなかったからである*25

なお,本改正では,これらの外,抽象的違憲審査の訴え(抽象的規範統制)の規定が修正され(基本法93条1項2号),連邦議会の「3分の1」の議員による申立てが要件とされていたものが,欧州連合裁判所に対する提訴と同じ「4分の1」に引き下げられた。リスボン条約とは直接の関係はないが,議会少数派の権限を強化するものといえよう*26

54. 温暖化対策に伴う自動車税の連邦税化

第54次改正 2009.03.19

ドイツは,欧州委員会における議論を受け,地球温暖化対策として,自動車税課税標準二酸化炭素排出量を組み込むこととした。しかし,自動車税は州税であり,このような政策実現の手段として活用するには不便があったため,州の歳入を補填する代償措置と引き換えに,これを連邦税とする本改正が実施された。*27

解説

従前,ドイツの自動車税は,排気量を課税標準としていた。しかし,欧州委員会で自動車関連税制の改革が議論され,地球温暖化対策として二酸化炭素排出量を課税標準とすべきことなどが問題とされる中*28,ドイツにおいても,2009年7月1日から,自動車税課税標準二酸化炭素排出量が組み込まれることとなった*29

この税制改革で問題となったのは,自動車税が州税であったことである(本改正前の基本法106条2項3号)。これから先,欧州連合の規制強化に対応し,迅速に自動車関連税制を改革していくには,連邦の直轄でないことは不便であった*30。他方,州の側でも,自動車税の徴税に技術的な困難があったことなどから,これを手放す意向はがあった*31

そこで,本改正は,自動車税(及び「機械化された交通手段に関わるその他の取引税」)が連邦に移管されるとともに(本改正後の基本法106条1項3号),この税源移管に伴う州の歳入を補填するため,連邦参議院の同意を要する連邦法によって,連邦の税収全体の一定金額が州に帰属されるべきものとした(同106b条)*32

55. 情報機関に対する議会統制委員会の必置機関化

第55次改正 2009.07.17

2001年のアメリ同時多発テロなどを受け,秘密情報機関の重要性が高まる一方,その民主的統制が問題となっていた。2009年,イラク戦争に対する連邦情報局の協力が報道されて問題となると,秘密情報機関の改革が進められ,連邦議会に置かれてた統制委員会による監視を強化するため,当該委員会の設置に憲法上の根拠を与える本改正に至った。*33

解説

2001年のアメリ同時多発テロなどを受け,ドイツにおいても,秘密情報機関の役割の重要性が高まったが,他方で,その民主的統制の必要性も問題となった*34。そして,2009年,イラク戦争に対する連邦情報局(BND)の協力が報道されて問題となり*35,秘密情報機関の改革が進められ,その一環として,議会による統制の強化が議論された*36

その結果,秘密情報機関の行動を監視するため,従前から連邦議会に存在した議会統制委員会(PKGr)について*37,同委員会による情報収集権限の強化や同委員会に対する他機関の共助義務等を盛り込む根拠法律の改正とともに,同委員会を基本法上の必置機関とすることで,その法的基盤を強化する本改正が実現した*38

もっとも,本改正で追加された基本法45d条は,第32次改正で追加された陳情委員会の根拠規定である同45c条の次に,同様に詳細を連邦法に委任する簡単な根拠規定を追加するのみである*39法制執務の観点からは,初めて「条見出し」が規定されたことが注目されるが,その後の改正では踏襲されていないように,単なるミスのようである*40

56. 欧州単一空域に対応するための連邦の行政権限の変更

第56次改正 2009.07.29

欧州連合によって採択された欧州単一空域プロジェクト(SES)を実施し,さらに深化させる上で,基本法において,航空行政権が「連邦の固有行政」とされていることが問題となった。本改正は,この問題を解消するため,航空行政権を「外国の航空安全確保組織を通じ」て行使することが可能な「連邦の行政」と位置付け直したものである。*41

解説

欧州の航空輸送は,既に1980年代から,各国で細分化された管制システムの非効率性等が問題となっていた。2004年,欧州連合で採択された欧州単一空域(SES)パッケージは,恒常的遅延の解消等が目指さしたものであったが,領空主権を有する各国の抵抗などもあり,2007年からは,後に「SESⅡ」に結実する改革論が議論されていた*42

本改正は,このような流れを受け,航空行政権を「連邦固有行政」として位置付けていた基本法87d条1項を改め,これを一般的な「連邦の行政」とした上,航空行政権のうち,航空の安全確保の任務については,欧州共同体法に基づき,「外国の航空安全確保組織を通じ」て実施することを可能としたものである*43

なお,高権的権利を「外国」ではなく,「欧州連合」や「国際機関」に委譲することは,従前から基本法23条1項,24条に基づき可能とされていた*44。また,政府原案の段階では,「欧州共同体法に抵触しない限り」,連邦の行政であるという限定が付されていたが,それは同23条1項の問題であるとする連邦参議院の指摘もあって削除された*45

57. 第2次連邦制改革:連邦と州の財政規律

第57次改正 2009.07.29

第1次連邦制改革(第52次改正)は,財政関係に関する改革を積み残しており,その点の検討が続けられていた。本改正は,その間に生じたリーマン・ショックを契機とする財政危機を踏まえ,財政均衡を原則とする連邦と州の財政規律を強化したものであり,併せて,公共の情報(IT)技術に関する連邦と州の協力などの規定も新設された。*46

解説

本改正は,第1次連邦制改革(第52次改正)で積み残された財政関係に関する連邦制改革である。すなわち,第1次改革では,連邦と州の権限の切り離しなどを通じ,財政関係の整序が図られたが,本改正は,これを踏まえた新たな財政運営原則を策定したものであり*47,そのなかでも,起債制限(赤字国債の発行限度)の厳格化が特筆されよう*48

本改正まで,基本法上の財政運営原則は,1967年(第15次改正)及び69年(第20次改正)の財政憲法改革の結果に基づき,起債は,第20次改正後の115条1項2文の「ゴールデン・ルール」(Goldene Regel)によって規律されていた*49。このルールの下では,原則として,起債は,予算案における「投資支出」の総額を越えないこととなる*50

しかし,この起債制限は,「投資支出」という概念が広く理解された上,「経済全体のバランスの乱れを防止するため」という例外を認めていたため十分に機能せず,累積債務は増大した*51。この事態は,欧州通貨統合に伴う安定・成長協定の遵守という点からも問題であり,2008年リーマン・ショック後の金融危機もあり,その対策が求められることになる*52

このような経緯を受け,本改正は,連邦の予算であれば,名目国内総生産の0.35%を超えない範囲で信用調達による歳入を認めるが*53,これを超える例外も認めるが*54,弁済のための規定を設けるとともに(本改正後の109条3項),1.5%の限界値を超える場合には,これを解消する義務を課すなど(同115条2項2文),厳格な財政規律を導入した*55

その外,本改正は,起債制限に関連し,財政規律を維持するための「安定評議会」の設置規定(109a条)と経過規定(143d条)を新設し*56,第1次連邦制改革による財政援助の制限規定(104b条)を修正した*57。また,併せて,公共の情報技術(91c条)及び行政の活動能力の評価(91d条)に関する連邦と州の協力が定められた*58

58. 求職者基礎保障における連邦と自治体の協働の合憲化

第58次改正 2010.07.21

いわゆるハルツ改革の一環として,求職者基礎保障制度が導入された。ところが,その事務が連邦と自治体の「協働機関」によって実施されることとなったため,連邦の主導を嫌う自治体側が違憲訴訟を提起し,これが連邦と自治体の混合行政であり,基本法に違反するとされてしまったため,その限度で混合行政を許す本改正がなされた。*59

解説

シュレーダー左派連立政権(前政権)は,「ハルツ改革」と称される労働市場改革を進め*60,2003年の第4次一括法(ハルツⅣ)において*61,失業保険の延長たる失業扶助制度(連邦の管轄)と②生活保護の一環である生活扶助制度(自治体の管轄)とを統合し*62,「ひとつの手から」に合理化する「求職者基礎保障制度」を導入した*63

しかし,当該給付の実施主体が,連邦雇用庁(BA)が設置する「協働機関」(ARGE)とされ,自治体は,その業務をARGEに委託するものとされたことから問題が生じた*64自治体側は,これまで担ってきた社会保障業務を取り上げられるばかりか,ARGEを通じ,連邦に対して従属的な協力者になってしまうことに反発したのである*65

自治体側は,野党キリスト教社会・民主同盟の後押しを受け,「実験的な措置」という名目で,一定数の「認可自治体」が,ARGEに代わって求職者基礎保障の実施主体となることを可能とする施行前改正を滑り込ませ*66,2007年12月20日には,連邦憲法裁判所において,ARGEの設置を違憲とする判決を勝ち取る(BverfGE 119, 131)。

同判決は,基本法83条が連邦と州の権限配分を定め,28条が州の組織と自治体の自治を保障していることからすれば,連邦と州(に属する自治体)の行政は原則として分離されなければならず(混合行政の禁止)*67,ARGEは,自治体が自己の責任において事務を処理する権利を定める基本法28条2項1文,2文に反するというのである*68

しかし,メルケル政権下の連邦政府でもARGEに一定の評価があったようであり,判決を覆し,求職者基礎保障の分野に限り,例外的に「混合行政」を許容する本改正が成立する(基本法91e条1項)*69自治体側の不満は,実験的な措置であった「認可自治体」の制度を基本法上の恒久な制度として格上げ・拡充することで補償されることになる(同条2項)*70

59. 政党資格の否認に対する事前不服申立制度の導入

第59次改正 2012.07.11

小政党が連邦議会選挙に参加するには,政党資格の確認手続を経る必要があるが,これに対する不服申立ては,従前,選挙終了後の「選挙審査」による必要があった。しかし,この点の問題が国際人権機関からも指摘されるようになったことなどから,連邦憲法裁判所に直ちに出訴し得るようにすべく,その権限を追加する本改正がなされた。

解説

連邦議会選挙は比例代表制を基本するが*71連邦議会又は州議会の現有議席が5名に満たない小政党が比例名簿を提出するためには,連邦選挙委員会から政党資格の確認を受ける必要がある(連邦選挙法18条2項)。そして,これに対する不服申立ては,選挙審査委員会に対する「選挙審査」として行われていた(同法49条)*72

しかし,「選挙審査」(基本法44条1項)は,選挙が終了後の事後審査にすぎない上,その委員を選出する連邦議会は,当該選挙において当選した議員たちから構成されるという矛盾があった*73。同委員会の決定に対し,司法審査を求めることはできたが,申立人は,それが選挙の結果を左右する違法であることまでいう必要があった*74

この問題は,2009年9月27日の連邦議会選挙の際,動物愛護党(Die PARTEI)*75によって広く知られるようになり,さらに,欧州安全保障協力機構(OSCE)の民主制度・人権事務所(ODIHR)が,同年12月14日付け選挙監視任務に対する報告書*76において,この点に言及したことなどから,その改善の必要性が議論されるようになる*77

以上の経緯を受け,本改正は,連邦憲法裁判所の権限を列挙する基本法93条1項に4d号を追加し,政党資格を否認された政治団体が,選挙審査を経ることなく,直ちに連邦憲法裁判所に出訴する途を開いた*78。ただし,連邦憲法裁判所の権限は法律で付与することができ(同5号),基本法の改正は必ずしも必要ではなかったともいえる*79

60. 高等教育における共同任務の再拡大

第60次改正 2014.12.23

2006年の第52次改正(第1次連邦制度改革)の結果,高等教育の権限の大部分は州に取り戻され,連邦は大学の建設や財政からは原則として手を引くこととなった。しかし,ドイツの学術研究の底上げを求める揺り戻しがあり,共同任務の範囲を拡大し,連邦が大学に恒常的な財政援助することを可能とする本改正がなされた。

解説

2006年の第52次改正(第1次連邦制度改革)は,大学制度に関する連邦の大綱的立法権限(同改正前の基本法75条)を廃止するとともに,大学の拡充及び新設(同91a条1項1号)を共同任務の対象から除き,また,教育・研究に関する共同任務(同91b条)の範囲を縮減した。その結果,教育政策の大部分は,州の管轄に取り戻された*80

もっとも,連邦は,同改正後においても,本改正前の基本法91b条1項2号に基づき,「全ての州との協定」によって,大学の学術研究プロジェクトに財政援助をすることはでき,「高等教育パッケージ2020」などの施策を実行していた*81。また,2019年12月31日までは,基本法143c条の経過規定に基づく財政支出も可能であった*82

しかし,第52次改正後の新規定及び経過規定の運用が開始されるうち,本改正前の基本法91b条1項2号が,同項1号と異なり,期限及び目的の限定された「プロジェクト」単位での財政援助のみを可能としていることの限界が意識され,ドイツの将来のためには,学術研究の底上げが重要であるとの立場からの揺り戻しが生じた*83

本改正は,このような経緯から,基本法91b条1項を改め,「全ての州との協定」という条件を基本的に維持して州の立場は確保した上,連邦が,個々のプロジェクトではなく,大学という組織自体に恒常的な財政援助をすることを可能とした*84。なお,本改正と併せ,奨学金を拡充するため,連邦教育促進法の改正もなされた*85
(本編・以上)

*1:山本武彦「メルケル政権(2005年)」「第2次メルケル政権」(情報・知識 imidas 2015),2015年3月(ジャパンナレッジ版),独立行政法人労働政策研究・研修機構「第三次メルケル政権、SPDと連立協定」(海外労働情報),2013年12月(インターネット公表情報)。

*2:村上淳一ら『ドイツ法入門』(改訂第8版,2012年8月)は,第53次改正までの段階での記述であるが,第52次改正を「ヨーロッパ化という外からのインパクトをも考盧要因」とした「基本法施行以来最大の改正」と評価する(75頁〜76頁)。

*3:他方,連邦にも不満が残ったという(中西優美子「ドイツ連邦制改革とEU法」(専修法学論集100号173頁),2007年7月,173頁〜174頁)。

*4:前掲中西・175頁,205頁〜206頁・注5,同「欧州憲法条約草案における権限配分規定」(専修法学論集89号107頁),2003年12月,112頁〜114頁。

*5:なお,連邦と州との対立が先鋭化しやすいのが教育の分野であり,2003年10月に始まった連邦制改革の議論は,この点に関し,連邦と州の対立が埋まらず決裂した(山口和人「連邦制改革のための基本法改正案の議会審議開始」,ジュリスト1315号187頁,2006年7月1日)。本改正では,教育に関する連邦の権限(大綱的立法権限の外,本改正前の基本法91a条1項1号,91b条に規定する共同任務)の多くが,州に委譲されることになるが,本文では,その点に関する説明は割愛する(同「連邦制改革のための基本法改正案の議会審議開始」,ジュリスト1321号211頁,2006年10月15日)。

*6:連邦参議院は,単に州の利害を代表するのみならず,州政府と連邦政府の支配政党が異なる場合に、単なる党利党略によって,連邦政府の立法を妨げる場合もあるとされる(服部高宏「連邦法律の制定と州の関与」,法学論叢160巻3・4号134頁,2007年1月,136頁。岩波祐子「二院制改革の動向」,立法と調査263号137頁,同月,142頁〜143頁,同「議会制の動向」,同311号130頁,2010年12月,136頁)。

*7:第42次改正前も行使要件は定められていたが(同改正前の基本法72条2項,75条柱書),実質的に司法審査性が否定されていた(服部高宏「連邦と州の立法権限の再編」,佐藤幸治ら[編]『現代社会における国家と法』・453頁。2007年5月21日,461頁〜462頁)。しかし,第42次改正が,同要件の文言を修正するとともに,同要件の充足の有無を審理するための特別な訴訟手続を規定したところ(同改正後の基本法93条1項2a号),連邦憲法裁判所は,2002年10月24日の判決(BverfGE 106, 62)において,競合的立法事項に関する連邦法の一部を無効と判断し,今後の連邦の立法に対する影響が懸念された(同・462頁〜464頁)。大綱的立法についても,連邦憲法裁判所の2004年7月27日判決(BverfGE 111, 226),2005年1月26日判決(BverfGE 112, 226)において,同様に厳格な判断が示されたことから,基本法の見直しが不可避であるといわれていた(同・457頁〜458頁,奥田喜道「判批」,ドイツ憲法判例研究会ほか編『ドイツの憲法判例Ⅲ』,75事件・461頁,2008年10月15日,464頁〜465頁)。

*8:連邦制改革に関しては,本改正に先立ち,2003年10月,両院が設置した「連邦制秩序の現代化に関する調査会」でも議論されたが,連邦と州の対立によって,これが2004年12月に決裂していたが,2005年11月18日,メルケル大連立政権の連立協定において,二大政党が連邦制改革に合意し,同年12月14日,連邦首相と各州首相の決議が成立したことから,本改正に至る審議が始まっており(前掲「連邦制改革のための基本法改正案の議会審議開始」),30年ぶりの大連立政権の成立という好機を活用し,年来の重要課題を解決しようとしたものとみることができる(前掲「連邦法律の制定と州の関与」・136頁〜137頁,同「連邦と州の立法権限の再編」・454頁〜455頁)。

*9:閉店法とは,商店の営業時間を規制する法律である。その外,集会法や地方公務員の身分にかかる権利義務に関する法律などが移管されており,その一覧は,前掲「連邦法律の制定と州の関与」・149頁・図表5にまとめられている。

*10:基本法75条を削除し,同72条に新3項を挿入する改正であり,対象事項の一覧は,前掲「連邦法律の制定と州の関与」・145頁・図表4にまとめられる。基本法31条の定める連邦法優位の原則の例外であり,連邦法を破る後法たる州法を「逸脱立法」「離反立法」(Abweichungsgesetzgebung)という(同書・147〜148頁)。なお,当該条項の制定理由(BT-Drs. XVI/813, S. 11)は,同書・151頁・⑯に邦訳されている。

*11:例えば,従来型(必須要件型)の競合的立法としての連邦法につき,基本法72条2項の要件(必須性の要件)を欠くに至った場合の連邦憲法裁判所の手続として,同93条に新2項が挿入された(前掲「連邦法律の制定と州の関与」・146頁〜147頁)。また,本改正後の基本法104a条4項は,連邦法が州に金銭給付を義務付ける場合に連邦参議院の同意を要するとしており,これお間接的に州の権限を強める改正である。なお,当該改正は,次段落に示す基本法84条1項とは逆に,連邦参議院の同意法律を増やすことが懸念されていた(同・160頁〜161頁)。

*12:その一覧は,前掲「連邦法律の制定と州の関与」・139頁・図表2にまとめられている。象徴的なのは,連邦刑事警察庁による国際テロリズムの予防を連邦の専属的立法権限として明記する同項9a号であり,同号の新設を受け,連邦刑事庁法が改正された(山口和人「ドイツの国際テロリズム対策法制の新たな展開」,外国の立法247号54頁,2011年3月,同「連邦刑事局法改正」,ジュリスト1371号45頁,2009年2月1日),同号は,その主体が,「連邦軍」ではなく,「連邦刑事警察」であることを確認する意味を有する点でも重要である。というのも,連邦憲法裁判所は,2006年2月15日の航空安全法違憲判決(BVerfGE 115,118)において,連邦空軍がテロリスト等にハイジャックされた民間航空機を撃墜させることを可能とする航空安全法(BGBl. 2005 I, S, 78)について,軍隊の出動要件(基本法35条2項,3項,87a条2項)を限定する基本法に反するとしていたからである(森英樹「「戦う安全国家」と個人の尊厳」,ジュリスト1356号57頁,2008年5月1日,62頁)。

*13:前段落に示した改正と併せて整理すると,競合的立法事項は,従前どおり,基本法72条2項の要件(必須性要件)を満たす限りにおいて州法に優位する連邦法を制定することができる「必須要件型」(本改正後の基本法72条2項),連邦が任意に制定することができるが連邦法と州法が対等な関係にある「完全競合型」(同条3項),連邦が自由に州法に優位する連邦法を制定することができる「連邦優位型」(前2類型に規定されない同73条1項各号)に3分類されることになり,その分類一覧は,前掲「連邦法律の制定と州の関与」・145頁・図表4のとおりである。なお,治安に関連する事項以外で,競合的立法事項から専属的立法事項とされた主要なものとして,原子力関連の事項がある(本改正前の74条1項11a号,本改正後の73条1項14号)。この分野では,1980年代から連邦と州の方針の対立が問題になるようになったことが指摘されている(ヨアヒム・ラートカウら,山縣光晶ら[訳]『原子力と人間の歴史』,2015年10月30日,375頁)。

*14:本改正前の基本法84条1項は,州が固有事務として連邦法を執行するという通常の場合(基本法30条,83条)において,連邦法において,その行政組織及び行政手続を規律するには,連邦参議院による同意を要するとしていた。そして,同規定の解釈上,連邦参議院の同意権は,対象となる連邦法のうち,組織・手続規定に関する部分に限らず,実体規定を含む全体に及ぶとされていたため(一体説),連邦参議院の同意権の範囲は極めて広汎になり,これが同意法律の数を増やす最大の要因となっていた(前掲「連邦法律の制定と州の関与」・153頁〜160頁)。そのため,本改正は,連邦参議院を通じて州が持っていた「完全な拒否権」を引きはがすとものとも評されたが,州自体の立法権限が強化されたこともあってか,反対した州は2州にとどまった(前掲「二院制改革の動向」・143頁,前掲「議会制の動向」・137頁)。

*15:特に,大綱的立法の場合,連邦と州の2段階の立法プロセスを要することもあり,ドイツは,条約違反国のワースト5に位置していたといわれ(前掲「ドイツ連邦制改革とEU法」,175頁〜177頁),次段落にいう罰金を課される危険性があった。

*16:環境規制にかかわる法が,各種の立法事項に分散しているという問題もあり,欧州連合との関係で条約違反が問題となっている事項のトップは,環境法分野であった(前掲「ドイツ連邦制改革とEU法」・180頁〜181頁)。

*17:従前,自然保護は,大綱的立法事項であったが(本改正前の基本法75条1項3号),本改正において,「自然保護の一般的諸原則,種の保存の法又は海洋自然保護の法」についてに限り,「連邦優位型」の競合的立法事項として確保された(本改正後の基本法74条1項29号,72条2項,同条3項2号参照)。これについては,一定の意味はあるが,不十分な解決であるとの指摘もある(前掲「ドイツ連邦制改革とEU法」・203頁)。なお,原子力規制に関しては,競合的立法事項(本改正前の基本法74条1項14a号)から専属的立法事項とされた(本改正後の基本法73条14号)。

*18:欧州指令の国内法化等が遅れ,欧州共同体設立条約228条2項(欧州連合の機能に関する条約260条2項)に基づき,一括金又は強制金が課された場合の負担配分が問題となっていた(前掲「ドイツ連邦制改革とEU法」・178頁〜179頁)。

*19:本改正前の同条項は,州の専属的立法事項に関する場合の全てにつき,欧州理事会において,州の代表が国を代表するものとしていたが,国の利益が効率的に反映しにくくなるという問題があった(前掲「ドイツ連邦制改革とEU法」・177頁〜178頁)。

*20:前掲「連邦法律の制定と州の関与」・136頁。前掲「連邦と州の立法権限の再編」・455頁。前掲「ドイツ連邦制改革とEU法」,173頁。村上淳一ら『ドイツ法入門』,改訂第8版,2012年8月,75頁〜76頁。

*21:近時のドイツの連邦制度改革の議論では,「欧州仕様(Europatauglichkeit)」,「欧州適合能力(Europafähigkeit)」という観点,すなわち,欧州連合の制度に適切に対応することが念頭に置かれる(前掲「ドイツ連邦制改革とEU法」・174頁,182頁,205頁)。

*22:本改正による条文は,初宿正典「ドイツ連邦共和国基本法の最近五回の改正」(自治研究85巻12号3頁,2009年12月)・4頁〜6頁に紹介される。

*23:リスボン条約による改正後の欧州連合条約5条,12条b号,欧州の機能に関する条約69条,260条2項,同附属議定書3条参照(なお,リスボン条約は,「改正条約」の形式を採るが,同条約1条及び2条による改正後の条文番号を5条で振り直す形式を採っており,同条によって振り直す前の条文番号は,それぞれ欧州連合条約3b条,8c条b号,欧州共同体設立条約61b条,228条2項である)。

*24:なお,同条項は,この場合に限らず,「欧州連合の条約上の根拠において連邦議会連邦参議院に帰属している諸権利を行使するため」,連邦法によって,多数決原則の例外を定めることを認める(前掲初宿正典・5頁)。

*25:本改正では,従前の文言は修正せず,「欧州連合の条約上の根拠」に基づく権限の委任を可能とする第3文が追加された(山口和人「リスボン条約承認に伴う第53次基本法改正」,外国の立法月刊版237−2号12頁,2008年11月,12頁〜13頁)。

*26:この「4分の1」という数字は,我が国の国政調査に相当する調査委員会の設置を求めるための要件(基本法44条1項1文)とも揃えることが企図されてたものであるが,その必然性には疑問も呈されている(前掲初宿・6頁)。

*27:本改正による条文は,初宿正典「ドイツ連邦共和国基本法の最近五回の改正」(自治研究85巻12号3頁,2009年12月)・8頁〜11頁に紹介される。

*28:2005年の欧州連合指令案は,自動車登録税を廃止して自動車税に統合するとともに,自動車税課税標準二酸化炭素排出量とするものであったが,各国の利害対立が大きく,この時点では成立に至らなかった(諸富徹「低炭素社会と自動車関連税のあり方」,地方財政48巻12号4頁,2009年12月,6頁)。

*29:この税制改革では,欧州連合二酸化炭素排出量削減政策との整合を図ることが目的として挙げられた(BT-Drs. XVI/11742, S. 1, 前掲諸富・9頁)。ただし,燃費の悪い小型車の所有者に配慮するため,課税標準二酸化炭素排出量に一本化されず,排気量と組み合わされることとなった(前掲諸富・10頁)。

*30:州税に関しても,連邦は立法権を行使し得るが(基本法105条2項),連邦参議院の同意を要するため(同条3項),迅速な対応には向かない(前掲諸富・10頁)。

*31:自動車税には,環境基準を満たす場合等に減税措置が付されたが,技術革新のペースが速いため,この基準を頻繁に見直す必要があったという(前掲諸富・10頁)。

*32:本改正によって,連邦は,自動車税の設計を自由に行えるようになったというのみならず,燃料税(基本法106条1項2号)や高速道路の料金(同74条1項22号)などを含め,統一的な交通政策を実施できることになったとされる(自動車関係税制の課税のあり方に関する検討会「低炭素社会における新しい自動車関連税の構築をめざして」,平成22年3月,添付資料3・1枚目参照〔平成26年5月27日「第2回 自動車関係税制のあり方に関する検討会」・配布資料3〕)。

*33:本改正による条文は,初宿正典「ドイツ連邦共和国基本法の最近五回の改正」(自治研究85巻12号3頁,2009年12月)・13頁に紹介される。

*34:初宿正典「ドイツ連邦共和国基本法の最近五回の改正」(自治研究85巻12号3頁,2009年12月)・13頁。

*35:Gordon, Michael R. “German Intelligence Gave U.S. Iraqi Defense Plan, Report Says”, New York Times, February 27, 2006.

*36:古賀豪ら「欧米主要国の議会による情報機関の監視」(国立国会図書館調査及び立法考査局・調査資料2014−1−b),平成26年9月30日,30頁。

*37:本改正以前の議会統制委員会の沿革については,前掲古賀ら・29頁〜30頁の外,1999年の渡邉斉志「ドイツにおける議会による情報機関の統制」(外国の立法230号124頁,2006年11月)が詳しい。

*38:具体的には,「情報機関の議会統制の強化に関する法律」(BGBl. I 2009 S. 2346)によって,新たな議会統制委員会法が制定されることとなるが,その邦訳は,前掲古賀ら・96頁から99頁に訳出される(前掲古賀ら・30頁)。その外,本改正及び同法の内容については,山口和人「情報機関に対する議会の監視を強化する基本法改正法等が成立」(外国の立法2009年8月号27頁)が簡潔にまとめている。

*39:だし,陳情委員会に関しては,陳情委員会を設置することが規定されたが(基本法45c条1項),本改正では,連邦議会が,「委員を任命する」という形式となった(同45d条1項)。また,委員会を表す語として,陳情委員会にいう「Ausschuss」ではなく,「Gremium」という語が採用されたが,その意義は,連邦議会常任委員会などに対する一般的規則が適用されないこと,構成や任務等の詳細が,議会の規則ではなく,法律によって定められるべきことにあるようである(前掲初宿・14頁)。

*40:立法経緯をみても,その理由は明らかではない(前掲初宿・14頁,注16・26頁)。連邦司法省の用語法ではなく,議員提出法案であったこともあっての見逃しということのようである(Jens Singer, Praxiskommentar zum Gesetz über die parlamentarische Kontrolle nachrichtendienstlicher Tätigkeit des Bundes, 14, Juni 2015, S. 14)。

*41:本改正による条文は,初宿正典「ドイツ連邦共和国基本法の最近五回の改正」(自治研究85巻12号3頁,2009年12月)・15頁に紹介される。

*42:SESⅡの採択に至る経緯については,例えば,中村徹「EUにおけるATM政策の展開」(大阪産業大学経営論集12巻2号141頁,2011年2月)がある。

*43:前掲初宿・15頁,山口和人「基本法改正(航空行政関連)及び航空輸送関連法規の改正」(外国の立法2009年8月号28頁)。

*44:欧州連合レベルので許認可権限の民営化がなされる場合も同様に,基本法23条1項,24条では対応できない場合も生じる(山本隆司「工業製品の安全性に関する非集権的な公益実現の法構造」,ジュリスト1245号65頁,2003年6月1日,76頁)。

*45:BT-Drs. XVI/13105 S. 9, S .10(前掲初宿・15頁,26頁・注17)。なお,政府原案に先立って提出された連立与党案(BT-Drs. XVI/12280)も同じ文言であった。

*46:本改正による基本法の新旧対照条文は,山口和人「ドイツの第二次連邦制改革(連邦と州の財政関係)⑴」(外国の立法243号3頁,2010年3月)・11頁〜18頁に訳出され,その織込み後の条文は,渡辺富久子「ドイツにおける財政規律強化のための基本法の規定」(外国の立法263号77頁,2015年3月)の84頁〜85頁に,山口和人訳として掲出される。また,初宿正典「ドイツ連邦共和国基本法の最近五回の改正」(自治研究85巻12号3頁,2009年12月)・17頁以下も参考になる。

*47:第1次改革では,連邦と州の共同任務の削減(91a条1項1号の削除),連邦から州への財政援助の要件の厳格化(104b条の新設),州の独自税源の自律性の強化(105条2a項の改正)などがなされたが,新たな権限関係の下での財政運営の諸原則等の問題の解決は先送りされた(前掲山口[2010年3月]・4頁)。

*48:本改正法の立案作業は,連邦・州間の財政関係を現代化することを目的として始まったものであるが(山口和人「連邦制改革の第2段階開始」,ジュリスト1334号,2007年5月1日・15日,219頁),後述のとおり,2008年の秋に深刻化した経済危機を受け,連立与党及び連邦政府が,財政赤字の歯止めとして,起債制限を基本法に明記する方針を決定したことを受け,財政規律の強化に関する詳細な規定が含まれることとなったようである(同「連邦制改革第二段階(連邦と州の財政関係)の基本法改正実現」,同1384号,2009年9月1日,124頁)。

*49:ドイツではワイマール共和国時代のハイパー・インフレーションの経験から,財政の均衡を重視しており,制定時の基本法115条は,「非常の需要がある場合に」,「特定の支出目的に限り」という厳格な要件を定めていたが,1960年代後半の経済成長の鈍化を受けて,財政政策による景気制御を可能とするため,第15次改正によって,「経済全体のバランスを考慮した予算運営の原則」(同改正後の基本法109条)が導入され,第20次改正によって,「経済全体のバランスの乱れを防止するため」(同改正後の基本法115条1項)に起債を行うことが可能となった(前掲渡辺[2015年3月],78頁〜80頁)。

*50:本改正前の基本法115条1項2文は「信用からの収入は、予算中に見積もられている投資支出の総額を超えてはならないものとし、経済全体の均衡のかく乱を防止するためにのみ例外が許される。」(前掲山口[2010年3月]・16頁)としていた。

*51:起債をせずに成立した連邦予算は1969年が最後であったが,ゴールデン・ルールには,会計年度ごとの起債を制限するのみであるため,累積していく債務の増加を阻止できないという欠陥があった一方,会計実務において,前年度の起債可能額を翌年度に繰り越すという手法が用いられていたという問題もあった(石森久広「ドイツ基本法一一五条旧規定「ゴールデン・ルール」の問題点」,西南学院大学法学論集44巻1号55頁,2011年9月,56頁〜57頁,63頁〜68頁)。また,ゴールデン・ルールの問題点は,2007年6月9日の連邦憲法裁判所判決(BverfGE 19, 96)でも指摘されており,同判決は,本改正を促す要因となった(同「ドイツにおける憲法上の起債制限規律に基づく司法的コントロール基本法改正の端緒としての連邦憲法裁判所2007年判決―⑴」,西南学院大学法学論集46巻4号96頁〈逆綴〉,2014年3月,95頁,同「―転換点としての連邦憲法裁判所1989年判決―」,同45巻1号35頁,2012年7月,53頁〜54頁)。

*52:ドイツでは,1970年代の石油危機,1990年のドイツ統一などを契機として,大幅な起債に頼らざるをえない時期があり,そもそも,ゴールデン・ルールの基準自体が遵守されていなかったが,2008年以降の景気後退をきっかけに,新規起債に歯止めがきかない状態となっており,両院の合同調査会においても,起債基準を改正する必要性があることでは意見の一致をみていた(渡辺富久子「ドイツの第二次連邦制改革(連邦と州の財政関係)⑵」,外国の立法246号87頁,2010年12月,87頁〜88頁)。

*53:財政均衡が原則であるが(本改正後の109条3項1文),連邦の予算については,0.35%以内であれば,その原則を満たしたものとみなされる(同項3文)。ただし,州の予算については,みなし規定は適用されない(同項4文)。

*54:例外としては,「通常の状況から逸脱した景気の推移の影響」の外,自然災害や異常な緊急状態の場合が規定される(本改正後の109条3項2文)。なお,自然災害や異常な緊急状態の場合については,さらに例外的な許容規定がある(同115条6文)。

*55:また,「特別財産」(我が国の特別会計に類似する。)の例外という抜け道(本改正前の115条2項)も削除された。立法理由によれば,本改正後の起債基準は,従来の規定の構造的弱点を除去するのみならず,「世代間公正」の観点から,将来の世代に利益をもたらす余地を拡大するものと説明され(前掲山口[2010年3月]・7頁〜8頁),これを具体化する附属法律として,「基本法第115条の規定の施行に関する法律」(邦訳・前掲渡辺[2010年7月]・98頁〜99頁)が制定された(なお,前掲渡辺[2015年3月]・87頁〜88頁は,2013年の同法9条3項の改正を織り込んだ邦訳である。)。

*56:本改正後の基本法109a条の定める安定評議会(財政安定化評議会)は,連邦財務大臣,各州財務担当大臣及び連邦経済技術大臣より構成され(前掲渡辺[2010年7月]・89頁〜90頁),附属法律として,「財政安定化評議会の設置及び財政非常事態の回避に関する法律」(邦訳・同96頁〜97頁)が制定された(同法のその後の改正を織り込んだ邦訳として,前掲渡辺[2015年3月]・89頁〜94頁がある。)。また,同143d条の経過規定は,新たな財政規律の実施時期を定める外,その実施に困難が想定される財政力の弱い州に対する財政援助を定めるものであり(前掲渡辺[2010年7月]・92頁),附属法律として,「財政健全化援助の供与に関する法律」(邦訳・同100頁〜101頁,前掲渡辺[2015年3月]・93頁〜94頁)が制定された。

*57:この修正は,州や自治体に対する財政援助の制限について,自然災害や異常な緊急状態の場合における例外を設けるものであり,本改正後の基本法109条が定める財政規律について,同様の場合における例外が定められたことに整合しよう。

*58:新たな財政規律の導入とは少し趣を異にする改正であるが,当初から改正が検討されていた事項であり(前掲山口[2007年5月1日・15日]・219頁),第8a章の表題である「共同任務」を「共同任務・行政上の協力」と改め,同章に追加された。なお,91d条が導入した行政の活動能力の評価に関する規定は,英米の行政文化の伝統において「ベンチマーキング」といわれるものであり,国家活動の実効性や資源投入の改善のための有効な手法だとされているようである(前掲初宿・23頁)。

*59:本改正で追加された基本法91e条は,名古道功「ドイツの求職者支援制度」(季刊労働法232号29頁,2011年)・40頁・注37に訳出される。

*60:これら一連のハルツ改革に対しては種々の評価があるものの,旧東独地域における深刻な失業率の上昇傾向に歯止めを掛け,2008年のリーマン・ショック後の世界的金融危機をも早期に克服する上で成果があったともされる(中内哲「ドイツにおける失業者支援制度」,海外社会保障研究183号17頁,2013年,17頁)。

*61:正式には,「労働市場における現代的サービスのための第四法」(Viertes Gesez für moderne Dienstleistungen am Arbeitsmarkt)であり,社会法典第2編(SGBⅡ)として,「求職者基礎保障制度」を導入した(v. 24. Dezember 2003, BGBl. I. S. 2954)。

*62:同改革まで,連邦雇用庁(BA)の地域機関たる雇用局(AA)が,保険原理に基づく期間1年の「失業手当」と税収を財源とする期間無制限の「失業扶助」とを管轄していたが,同改革後,前者を「失業手当Ⅰ」(SGBⅢ)として純化した上,後者を求職者基礎保障たる「失業手当Ⅱ」と位置付け,自治体の管轄する社会扶助(生活保護)のうち,就労能力のある者に対する扶助の部分(高齢者や障害者に対する給付を除く部分)を吸収した(武田君子「ドイツ社会補償制度における政府間関係」,海外社会保障研究180号28頁,2012年,29頁〜30頁)。

*63:同改革は,これら重複する制度を統合することで,連邦が有する就職斡旋や職業訓練に関する資源と自治体が有する社会的包摂・自立支援に関する資源とを「ひとつの手から」提供することを目指した(前掲武田・29頁〜30頁)。他方,自治体としても,失業の増大の責任は連邦の経済政策による部分が大きいのに,自治体が,社会扶助(生活保護)として,失業者の面倒をみなければならないことに不満があった(正井章筰「ドイツの社会保障制度」,早稲田法学 86巻4号49頁,2011年,73頁・注60)。

*64:ハルツⅣによる社会法典第2編6条1項1号,44b条が規定するところである(前掲武田・30頁)。なお,連邦政府の当初案では,BAの下に自治体職員を受け入れるという一元体制を規定していたが,連邦参議院の反対があった(前掲正井・79頁)。

*65:自治体にとって,社会扶助の財政負担は重かったが,経験を積み重ねてきた政策分野が吸い上げられることは問題であり,特に,郡においては,それが業務の半分以上が占める領域であったため,その存在意義さえ脅かされなかった(前掲武田・30頁,31頁)。他方,その後,これとは逆の観点からの批判,すなわち,ARGEが連邦と自治体との二元的な組織であるため,連邦の方針と自治体の政策との間の調整に時間と労力を費やし,また,職員,予算及び物品に関する管轄権が不明瞭であるというガバナンス上の問題があるので,連邦の下に組織を一元化するべきであるとの見解も生じた(戸田典子「失業保険と生活保護の間」,レファレンス60巻2号7頁,2010年2月,27頁)。

*66:ARGEによる方式と認可自治体による方式の行政パフォーマンスを比較検証するための「実験的な措置」として,69の自治体に限定して実施され,連邦労働社会省は,2008年12月21日までに,その評価をするものとされた(前掲武田・30頁〜31頁)。

*67:それぞれの権限は,独自の人員,資産,組織でもって行使されるべきであり,例外はあり得るが,本件では,例外を認めるべき必要性はないという(前掲名古・39頁〜40頁)。

*68:判決は,立法者が,求職者基礎保障を「一つの手」によって行わせようというのであれば,これを連邦又は州に一元化すれば足りるとしており,本判決によって,ARGEは廃止されるものと思われた(前掲正井・80頁〜81頁)。

*69:自治体側勝訴という結果からいえば,求職者基礎保障の給付業務を自治体に一元化し,これを「ひとつの手」とするモデル(赤坂幸一「自治体の内部組織自律権(2 BvR 1641/11)」,ドイツ憲法判例研究会221回報告原稿,2015年10月16日,4頁・注11)を採用するのが素直なように思える。しかし,実際には,ARGEという混合行政を維持するための基本法改正をするか,これを連邦の一元行政の下に再編するかの二択で議論されたようである(前掲武田・32頁)。前掲名古・40頁は,結局,ARGE方式が維持された理由として,本文にも示したとおり,「ARGEに対する一定の評価」を挙げるのであるが,そうであれば,自治体側の反発は何であったかということになってしまう。

*70:その結果,当該規定に基づき78団体の申請がなされ,新たに41団体が認可自治体に選定された(前掲武田・32頁〜33頁)。従前の認可自治体は,財政的に豊かでSGBⅡの受給者の少ない自治体が多かったが,新たに認可自治体に移行した自治体には東部の失業率の高い地域が多く含まれており,これまでのSGBⅡの実施状況を踏まえ,自らの地域の最重要政策について,連邦に任せてはおけないという自治体側の不満のあったものと推測されている(前掲武田・35頁)。なお,当該規定を具体化する法律に関しても自治体側から憲法異議が提起され(2 BvR 1641/11),2014年10月7日の連邦憲法裁判所判決(BverfGE 137, 108)で違憲判断が示されている(前掲赤坂報告参照)。

*71:いわゆる「小選挙区比例代表併用制」であり,有権者は,小選挙区の票と比例代表の票を別個に投票するが,各政党の議席数は,原則として,比例代表の票数を基準として定まり,小選挙区の票は,具体的に当選すべき候補者を決定する基準となる。

*72:渡辺富久子「連邦選挙委員会の政党資格の否認に対する不服申立て」(外国の立法252−2号26頁),2012年8月。

*73:OSCE/ODIHR “Germany, Parliamentary Elections, 27 September 2009”, OSCE/ODIHR Election Assessment Mission Final Report, 14 December 2009, p.20.

*74:要するに,申立人の主観的権利を保護するのではなく,客観的な選挙秩序を維持するための客観訴訟という位置付けになろう(OSCE/ODIHR op. cit., p. 21.)。

*75:動物愛護党の「Die PARTEI」は,正式名称である「Partei für Arbeit, Rechtsstaat, Tierschutz, Elitenförderung und basisdemokratische Initiative」の頭字語である。

*76:OSCE/ODIHR op. cit., pp20-.21. 同報告書は,ODIHRが,2009年9月27日の連邦議会選挙に関して実施した選挙監視任務の最終報告である。

*77:左翼党が提出した法案の提案理由(BT-Drs.XVII/7848, S. 1)における説明による。ただし,当該法案は否決され,左翼党以外の各党が提出した基本法改正法案(BT-Drs. XVII/9392)及び関連法案(BT-Drs. XV//9391)が可決されることになる。

*78:本改正法案の可決と併せ,「選挙における法的救済の改善に関する法律」(BGBl I 2012 S. 1501)が可決され,連邦選挙法18条に4a項が追加されるなどした外,連邦憲法裁判所法の規定も整備された(前掲渡辺参照)。

*79:実際,左翼党提出の前掲法案(BT-Drs.XVII/7848)は,基本法を改正せず,連邦選挙法及び連邦憲法裁判所法を改正するというものであり,連邦議会においても,基本法の改正は不要であると主張した(BT-Pr XVII/181, 21473D)。

*80:第1次連邦制改革の結果,連邦の管轄として残っているのは、大学への入学許可と卒業についての規定と,職業教育の運営に関する規定に関わる権限にすぎず,連邦は、大学の財政から手を引くことになった(日本学術振興会「ドイツの高等教育機関」,海外センターレポート,平成27年3月,5頁・注1)。

*81:渡辺富久子「高等教育における連邦と州の協力の強化に向けた基本法の改正」,外国の立法262−2号33頁,2015年2月)。

*82:同条1項は,「大学附属病院を含む大学の拡充並びに教育計画という共同任務の廃止…(中略)…の結果,連邦の財政負担分がなくなったことに対して,州は,2007年1月1日から2019年12月31までの間は,毎年,連邦の予算から一定額が与えられる。2013年12月31日までは,この金額は2000年から2008年の調査期間における連邦の財政負担分の平均値に基づいて与えられる。」とする。

*83:本改正前の基本法91b条1項1号は,大学以外の学術的研究の「機関及びプロジェクト」を共同任務の対象としていたが,同項2号は,大学における学術及び研究の「プロジェクト」のみを共同任務の対象としていた。大学に対する援助は,期限付きでテーマの限られた範囲に限られ(BT-Drs. XVIII/2710, S. 1.前掲渡辺),これを恒常的に行うには,基本法の改正が必要であると理解されていた(前掲日本学術振興会・17頁)。

*84:本改正後の基本法91b条1項は,「連邦及び州は,研究及び教育の助成が特定の地域の枠を超えた意義を有する場合は,協定に基づき協力することができる。大学に主眼を置いた協定は,全ての州の同意を要する。これ(第2文)は,大型装置を含む研究建物に関する協定には適用されない。」とする。

*85:これまで連邦と州が分担していた奨学金を連邦のみの負担とした上,その要件を緩和し,給付を拡充したものである。渡辺富久子「連邦教育促進法の改正」(外国の立法263−1号27頁,2015年4月)は,これを本改正を「受けたもの」と表現するが,具体的関連性は必ずしも明確でない。

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