蓋付きのどんぶりが、一脚だけある。昭和の生残りだ。 わが家にはふた系統のどんぶりがあった。ひとつは藍色地に、水流だろうか柳の枝だろうか、灰色の縦筋模様が全面に入ったもので、古風な浴衣地のごとくおとなしく、地味なものだった。もうひとつは昔の日本蕎麦屋で天丼や親子丼の器としてよく視た、白地部分と藍地部分とに西瓜帽のごとく六分割され、それぞれに赤絵模様が描きこまれたものだった。 どちらも蓋付きで五脚揃いだったものが、年月を経るうちにいくらか数が減った。東日本大震災で大々的に割れ、浴衣柄が二脚と西瓜帽柄が一脚残った。すでに一人家族となっていたから、在庫はそれで十分だった。 二度の入院生活を経験して、自…