令和2年1月10日、世界の始まりを告げる夜明けの向こうに、伯耆大山が浮かび上がった。この瞬間に出逢うために、山を登り続けている。新宿からバスに揺られ、13時間。米子駅に降り立ち、大山寺へ向かう始発バスの車窓に、その姿はあった。 初めてライターとして採用してくれたIT企業を退職し、転職先の仕事が始まるのは1週間後。いまは独り鳥取の山にいる。その贅沢を噛み締め、登山靴の紐を結び直した。 空は真っ白。きっと頂上は吹雪いている。危険な登山になるかも。そんな恐怖を餌に山頂を目指す。 登山口に向かって歩き始めると、後ろから「すみませーん」と声をかけられた。「登山口ってどちらですか?」 振り返ると、同い年く…