やがて、院宣をしっかと首にかけた文覚は喜び勇んで伊豆へと下った。 旅程は三日である。 頼朝の前に現れた文覚は、首からはずした院宣を渡した。 さしも沈静な頼朝の顔にも血が上った。 実は頼朝は不安な日を送っていたのであった。 文覚の余計な奔走が藪蛇《やぶへび》となり、 この上重い咎なぞ受けてはかなわぬと思っていた。 また文覚のいう政治力も半心半疑であった。 ここ一週間というもの、文覚の福原での行動が気にかかりつづけていた、 どの様な結果がもたらされるか、それは頼朝にもまったくわからなかった。 だが、今彼の手にしているのは勅勘の許しであり、平家追討の院宣である。 手が震えていたのを文覚はじっと見てい…