「でも、私、ひどいことをされたわけでもないし、こうやって育ててもらってきたんだよ」 母は言葉はきついし、私が意見を言ったり、反論したりすることを許さなかった。感情的で他人に厳しい人ではある。だけど、暴力を振るわれたこともなければ、育てることを放棄されたこともない、母が必死で生きてきたのもわかっている。 瀬尾まいこ『ありか』は、親ガチャでハズレを引いた人が、義弟ガチャ義母ガチャママ友ガチャ同僚ガチャで当たりを引いて、その人たちの温かい支えや励ましのお陰で毒母と距離をおけるようになるまでの話だった。 こんな風に簡単にまとめてしまうことに若干の申し訳なさはあるが、でもこれは簡単な話なのだ。この小説の…