あらためていうまでもない、ことのはずなのだ。 ぼくの最も嫌いなものは、善意と純情との二つにつきる。 考えてみると、およそ世の中に、善意の善人ほど始末に困るものはないのである。ぼく自身の記憶からいっても、ぼくは善意、純情の善人から、思わぬ迷惑をかけられた苦い経験は数限りなくあるが、聡明な悪人から苦杯を嘗めさせられた覚えは、かえってほとんどないからである。悪人というものは、ぼくにとっては案外始末のよい、付き合い易い人間なのだ。 中野好夫「悪人礼賛」 悪人礼賛 ――中野好夫エッセイ集 (ちくま文庫) 作者:中野好夫 筑摩書房 Amazon 二都物語 (新潮文庫) 作者:チャールズ ディケンズ 新潮社…